二宮: 山本社長とお話するとなれば、やはり水着のお話を聞かないわけにはいきません。以前にもお聞きした“ゼロポジション水着”は商品化に向けて動いているそうですね。
山本: 先日、あるスポーツジムの方とお会いして、そこでもゼロポジションの浮く水着の話になりました。いろいろな方と話をする中で、最もよく上がってくる要望は、中年からご高齢の方まで、「運動をしたいけども、運動したいときに何をすべきなのかわからない」というんです。ある程度の年齢に達している方は、少なからず体に心配ごとを抱えています。やはり多いのは関節や腰への不安です。そこに負担をかけないという点では、やはり水泳が適しています。ただし、泳ぎが得意ではないという人は非常に多い。また、泳げたとしても毎日プールに行くという人は少ない。やはり、水に入るというのはハードルの低いことではないようです。

 浮力を得られる水着

二宮: 泳ぎの好きな人は、いくら泳いでも平気ですが、たしかにそういう人ばかりではありません。
山本: 小さい子供が水泳を習いに行くのは泳ぎを覚えるためですが、中年層以上の人がプールに行くのは、運動するために通っているんですね。その時にゼロポジション水着が力になると確信しています。この水着を着れば、自然と泳ぐことが身についていく。さらに、元々泳げる人は、さらに楽に泳げるようになる。水着の上から着ける『ボックスタイプ』と、腕に装着する『アームサポートタイプ』の補助具もありますから、これで自然と泳げるようになってきます。

二宮: 浮き輪のように浮力を得ることができる水着であり、補助具ということですね。
山本: はい。ボックスタイプの水着に関しては、泳ぐ人のレベルにあわせて浮力を選べるようになっています。スイマーの方には『Z-po05』『Z-po10』『Z-po15』という3種類から選んでいただき、自分のレベルにあったタイプで泳いでいただくということです。数字が大きくなればなるほど、水着の厚みは増すのですが、その分浮力を大きく得ることができるんです。

二宮: 05、10、15という数字は厚みを表しているのですか?
山本: いや、これはニュートンという力の単位を表しています。5ニュートン、10ニュートン、15ニュートンという具合です。5ニュートンでおよそ500ミリリットルのペットボトル1本分の浮力を持っているんです。10ニュートンなら1リットルのペットボトル分、15ニュートンなら1.5リットルのペットボトル分というように。

二宮: ということは、空のペットボトルを体に装着しているようなものですね。
山本: それぐらいの力で、おヘソの下からヒザの上のところに浮力をつけて差し上げる。そうすることで、足の下がりを防止出来るのです。以前もお話しましたが、人が泳ぐ際には浮心と重心というポイントが存在して、2点のちょうど中心にところがいわゆるゼロポジションになります。このゼロポジションに体のバランスを持ってくるには、この水着で浮力を付加すればいいんです。そうすることで、体がゼロポジションを勝手に覚えていく。これを体得してしまえば、だれでも簡単に泳ぐことができます。二宮さん、足が下がってしまうと、水圧によってどのくらいの重さがかかると思いますか?

 ゼロポジションとは?

二宮: 想像がつかないですね。ただ、かなりの重さになるんでしょう。100キロくらいですか?
山本: 仮に浮いている状態から30センチ、足が下がったとしましょう。そうすると、おそらく1トン近い力が体全体にのしかかってきます。だから、足が下がると泳げなくなってしまうんです。

二宮: 1トンも!!
山本: 専門家の先生に話を聞くと、スイマーにとっての一番の抵抗は、上からかかる水圧だとおっしゃいます。1トン近くある水の重さを足で蹴ろうとしても、蹴れるはずありませんよね。だから前に進まない。しかし、足を水面近くでキープすることで上からの水圧から逃れることができますから、疲労を感じることなく距離を泳ぐことができる。距離が泳げるということは、手足を動かす回数が増えるわけですから、十分な運動量を確保することが出来る。泳ぐためには、水面にできるだけ平行に泳げる状態のポジションを作るっていうことが非常に大切なんです。

二宮: それがまさに、ゼロポジションということですね。
山本: はい、そのとおりです。今まで、浮力を与えるものといえば、浮き輪やビート板のようなものしかなかった。でも、私たちは水着素材そのものに浮力をつけて、浮くように作ったんです。こういうものはありそうで、なかったですね。

二宮: 全く新発想の水着ですね。
山本: さらに、この『アームサポートタイプ』のギア(写真)を腕に装着すれば、ビート板を使うことなく腕に浮力を得ることができますから、正しい息継ぎの練習ができます。泳げない人の多くは息継ぎが苦手なんです。子供ならばプールの水を飲んでしまっても平気かもしれないけれど、大人の場合、プールの水は汚いとか塩素が入っているからとか、そういうことでプールに入るのがどうしても億劫になってしまう。そういう人のためにも、必ず役に立つアイテムです。

 水着が泳ぎを教えてくれる

二宮: 中高年の方が泳ぎを楽しむことができれば、生活スタイルに変化が生まれるかもしれません。
山本:「泳げる人をより速く泳げるようにできたら」という着眼点から開発されたものが、
「泳げない人も泳げるようになったら」という水着になったのは、我々としても嬉しいですね。現在、プールを持っているスポーツジムの方から、この水着についてたくさんの問い合わせをいただいているんです。スイミングスクールはお昼からは幼稚園の子がやってくる。夕方からは小学生が来ますよね。この時間が忙しくて、朝と夜は比較的需要が少ないんです。そこで、午前中はご自宅にいる年配の方を、そして夕方以降には仕事の終わった社会人を取り込む。そうすれば、経営的にも魅力なアイテムになるんです。これからは少子高齢化がさらに進みますから、こういった水着で業界全体を支えることができたら、これ以上の喜びはありません。

二宮: スポーツジムの経営まで助けるかもしれない水着。いろいろな面で画期的ですね。中高年層の取り込みは今後の社会を考えれば、避けては通れない大きな課題です。
山本: さらに、この水着はそこだけにターゲット絞っているものではないというのもポイントです。先ほども言いましたが、開発の出発点は「泳げる人をより速く泳げるように」するための水着。実際、ゼロポジションを習得すれば速く泳げるわけですから、この問題もクリアされています。すでに複数の高校から「トレーニングに使わせてほしい」という声もいただいています。サイエンティフィックにフォームを改良できるのだから、これは使わない手はないと思いますね。

二宮: 水着がフォームを教えてくれる、ということですね。
山本: そうですね。この発想は、中高年層だけでなく、実は子供たちにも非常に有効なアプローチなんです。小さな子供がスイミングスクールに通い始めると、まず顔を水につけるところから始まって、浮く練習をして、バタ足をして、ビート板で泳いでという練習になります。ただし、顔をつけて、その後に浮く練習といっても、みんな最初はどうしても体が下がってしまうものなんです。そこからうまく泳ぐことができるかは、結局その子のセンスにかかってきてしまう。何となく水が怖いと感じてしまうと、どうしたって足は下がってきてしまいますし、一方で、水に恐怖心のない子は簡単に泳ぐことができてしまう。この個人差をなかなか埋めることができないのが現状です。しかし、水泳の“いの一番”でゼロポジションを先に教えることができれば、体が勝手に浮くことを覚えますから、そこから先、泳ぐことは難しいことではないんです。泳ぐことの楽しさを知ってしまえば、上達するのは早いですから。

二宮: クセのない時に正しいフォームを身につけることもできますね。ゴルフのスイング習得などと同じアプローチということでしょうか。
山本: 全くそのとおりです。上達が早まれば、泳ぐことに集中できるし、スイミングスクールの立場になれば、「ウチは他よりも早く泳げるようになる!」という宣伝だって打てる。差別化が図れますよね。ゼロポジション水着はそういう可能性すら秘めている水着なんです。

 山本化学工業株式会社