第802回 日米“世紀の落球”事件簿

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 後々、このプレーは“世紀の落球”としてヤンキースファンの間で語り継がれることになるのかもしれない。

 

 

<この原稿は2024年11月25日号『週刊大衆』に掲載されました>

 

 ドジャースが3勝1敗と大手をかけて迎えたワールドシリーズ第5戦、ヤンキース5対0の5回表に、“事件”は起きた。

 

 この回、ドジャース先頭のキケ・ヘルナンデスがヒットで出塁。続くトミー・エドマンのセンターへの打球を、1回表に2ランを放った主砲のアーロン・ジャッジがグラブに当てて落としてしまったのだ。

 

 このエラーをきっかけにエースのゲリット・コールはリズムを崩し、一塁へのベースカバーを怠る自らのボーンヘッドも重なって5点を奪われ、追いつかれた。

 

 最終スコアはドジャースの7対6。野球に“れば・たら”は禁句だが、ジャッジの落球がなければ、ワールドシリーズが5戦で終わることはなかっただろう。悔やんでも悔やみきれない痛恨のミスとなった。

 

 日本のプロ野球にも“世紀の落球”事件を引き起こした男がいる。元阪神の池田純一(当時の登録名は池田祥浩)だ。

 

 1973年といえば、巨人がV9を達成した年だ。前年2位の阪神は“打倒巨人”を掲げ、虎視眈々と優勝を狙っていた。

 

 8月5日、甲子園球場。試合前の時点での首位は中日。2ゲーム差で2位・阪神。巨人は首位から5.5ゲーム差の4位。

 

 2対1で迎えた9回表、2死一、三塁で打者は黒江透修。江夏豊のストレートを叩いた打球はセンターへ。

 

 捕れない打球ではなかったが、運の悪いことに池田が天然芝に足をとられ、転倒してしまったのだ。その間に、2人のランナーが還り、巨人が3対2で逆転勝ちを収めた。Ⅴ9を達成した巨人と2位・阪神のゲーム差は、わずかに0.5。阪神ファンが“あの落球がなければ……”と天を仰いだのは言うまでもない。

 

 先に“落球事件”と書いたが、池田は落球していない。なぜならボールに触っていないからだ。正しくは“池田転倒事件”と言うべきだろう。

 

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