『ROUND AFTER ROUND.2』覚悟で咲かせるポッピンの花 ~D.LEAGUE~
日本発のプロダンスリーグ『D.LEAGUE』、昨季(23-24シーズン)で最下位と涙を飲んだdip BATTLES(ディップ バトルズ)。KENSEIがディレクター兼任となって2季目は、好調な滑り出しを見せている。11月6日に行われたROUND.2ではダンスボーカルグループMAZZELのRANをSPダンサーで起用。KENSEIの幼馴染であるRANとの共演で、LIFULL ALT-RHYTHM(ライフル アルトリズム)に5対1で勝利した。今季のBATTLESは何が変わったのか――。
D.LEAGUE2季目の21-22シーズンから参画するBATTLES。初年度こそチャンピオンシップ(CS)に進んだが、22-23シーズンは12位中8位に終わった。昨季はKENSEIがリーグ最年少ディレクターとして就任したが、開幕から6連敗を喫するなど13チーム中13位に沈んだ。それが今季は開幕2連勝、ROUND.3を終えてリーグ唯一の負けなし(2勝1分け)である。
特にROUND.2で魅せた「POPPING AGE」が鮮烈な印象を与えた。時代を意味する「AGE」という言葉に、昨年10月のKENSEIの言葉が頭を過った。昨季のROUND.0のステージ上で、こう威勢よく誓った。
「今シーズンの僕らのテーマは新時代を創る。D.LEAGUEを盛り上げ、ひとつの社会現象となるように身を粉にして頑張ろうと思っています。こんな尊敬できる数々のダンサー方やディレクターがいる中ですが、全然年とかは関係ない。これからブチかましていきます!」
レギュラーシーズンの結果だけで言えば、新時代をアピールできたとは言い難い。だからこそ、この作品には彼らのプライドや覚悟が詰まっているように感じた。青いシャツを羽織り、ライトイエローのパンツとバンダナで揃えた衣装。重めのビートから、一体感のあるポッピンを披露した。
一糸乱れぬシンクロパフォーマンスから続く、エースパフォーマンスではKENSEIが輪から弾き出される様に現れた。高いスキルを存分に発揮した後、彼の横に並んだのはSPダンサーのRANだった。2人は幼馴染。「POPPING AGE」の「AGE」には時期という意味もある。KENSEIとRANにとっては一緒に踊っていた“あの頃”を想起させるような作品だったのかもしれない。KENSEIは終演後こうも語っていた。
「今回は幼馴染で同郷のRANを迎えた。別々のステージに行ったのですが、今日ここでポッピンを踊った。久しぶりだけど踊れば、会話せずともダンスがマッチする感じがあった」
RANという“助っ人”の存在について、他のメンバーの声も聞いた。Asahiは「元々知っている人は多かった。感覚的には“久しぶり!”って感じでした」と言えば、UMIは「一緒にいてもチームメイトかのような感覚でした。SPダンサーとは思えないほどチームに馴染んでいました」と証言する。またRANのダンススキルについても「めちゃくちゃ巧い」と2人は口を揃え、Asahiは「ソロがやばかったです」と振り返った。
試合結果は「コレオグラフィー」の項目は落としたものの、5対1――。勝利が決まった瞬間、誰よりも高く飛んでいたのがRANだ。KENSEIと熱く抱擁し、チームメイトたちと喜びを分かち合っていた。蛍光色の8人が歓喜の花を咲かせていた。また、このROUNDのMVD(Most Valuable Dancer)にはKENSEIが選ばれた。
KENSEIはROUND後の囲み取材でこう語っていた。
「自分たちはポッピンで負け続けてきて、今年はひとつの価値であるポッピンで“絶対勝ってやる”という気持ちが乗っかって勝利に繋がった」
昨季の勝てない日々に、自分たちのスタイルに迷ったこともあっただろう。KENSEIはオフシーズンに取り組んだことを明かしてくれた。
「自分たちを見直し、平気で3時間ぐらい地味練(習)を、ヒップとかをやってきた。そこまでやらないといけないと思い、誰よりも頑張っていました。スタイルは変えていないのですが、基礎力、頑張ったからこそ出た結果だと自分は捉えています」
ディレクター兼任としては2季目を迎えた。報道陣から「気持ちや考え方で変えたことはありますか?」と問われた。KENSEIはこう答えた。
「そうですね……。これが最後だと思って挑んでいます。ここで負けたらいなくなる覚悟でいました。ディレクターになった以上は、ここから他のチームに移籍するのは考えられない。dipで最後を終わりたかった。勝てなかったら、辞めるという気持ちでオフシーズンを過ごしてROUND.1に入りました」
その覚悟のほどはチームメイトも感じ取っている。今季からチームリーダーとしてKENSEIを支えるAsahiは言う。
「昨季は人生で経験したことない結果で、KENSEIも僕たちもショックだった。ただKENSEIの根本は変わっていない。負けず嫌いで、ストイック。根性溢れる人。そこに去年よりも更なる覚悟というか。今年負けたら終わるくらい。武士のようなマインドを持っている。覚悟の大きさが変わった感じはします。その点は僕らも同じですが、そこはKENSEIが変えてくれた」
KENSEIと同じくチーム初年度からBATTLESに所属しているUMIの意見はこうだ。
「人が変わったような感覚があります。今年になって、人を思う力、育てていくディレクターとして力がすごいなと感じました。彼には人を動かす力がある。“KENSEIについていこう”“KENSEIと一緒に頑張りたい”と思わせる力です。それがどんどん強くなってきて、チームに伝播している感覚があります」
今季、チームが大事にしているのは「共有」だ。再びAsahの証言――。
「去年負け続けて、シーズンが終わってすぐ練習を始めました。去年足りなかったのは共に過ごす時間。基礎固めを一緒に過ごす時間が第一に足りていなかった。オフシーズンは毎日欠かさず基礎練習をしてきました。今年は評価項目が変わったので、自分たちがどうやっていくか、メンバーと話し合う時間を大切にしました」
昨季のCSの期間もBATTLESは練習時間に充てていたという。「本当に休みがなかった」とはUMIは苦笑する。
一緒に過ごす時間が増えたことでチームの結束も高まった。「今年こそ」との思いがチームをひとつにする。ひとつになる作業として、AsahiとUMIはBATTLESのポッパーたちとポッピンの練習時間を長く費やした。Asahiはロックダンス、UMIはヒップホップダンスが主である。
「お互いのポッピンのクセや好きなところが分かるようなってきました。ROUND.2は基礎練をオフシーズン、長い時間やってきたことが、ROUND.2の完成度に繋がった」(Asahi)
「去年もポッピンの作品はありましたが、そのROUNDの練習期間だけ必死にやるという感覚だった。今年はシーズン始まる前からやり、貯金をつくったという感じですね。チームのポッパーたちにひとつひとつ深いところまで聞き、自分なりに噛み砕いていっぱい練習しました」(UMI)
ROUND.2の勝利については、Asahiが「オフシーズンの自分たちのやってきたことが実になった。何より自信に繋がりました」と言えば、UMIは「ポッパーたちのプライドを守る。ポッパーたちが積み上げてきたものを守るという、マインドでオレはROUND.2踊りました」と語った。それぞれの覚悟が水となり、光となり、芽吹かせた。そこから昨季の悔しさが肥やしとなり、チーム一丸となって咲かせたポッピンの花。
11月20日に行われたROUND.3でBATTLESは「FLOWERS」をテーマにハウスダンスでブレイキンを駆使するKOSÉ 8ROCKS(コーセー エイトロックス)に挑んだ。結果は3対3のドロー。開幕からの連勝は止まったが無敗をキープしている。だがAsahiは「僕たちとしては負けに近い」と厳しい表情だ。「引き分けは負け。昨季は何連敗もしているので、引き分けでは喜べない。また気を引き締めて臨んでいかなければいけない」とUMI。覚悟を決めて臨むBATTLES。咲かせる花は、まだまだこんなもんじゃない――。そういう気概が見て取れた。
(文・写真/杉浦泰介)