期待を超越する大谷翔平、投手復帰は焦らず
さる11月21 日(現地時間)、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手が自身3度目、ナショナル・リーグでは初のMVPに輝きました。ロサンゼルス・エンゼルスから移籍してきて1年目、春先にいろいろ問題が起きるなど、決して順風満帆ではなかったはずです。開幕戦の韓国シリーズを含め、序盤はやや出遅れた感がありましたが、前半戦から新天地でみんなを納得させる活躍で雑音を封じ込めました。
理想通りのスタートは切れなかったものの、ひとつひとつ理想とのギャップを埋めていった。準備を含め、やるべきことをやっていた結果に繋がったのでしょうが、とはいえ、それを実現できるのはごく一部の人間。それは本当に素晴らしかった。彼の活躍には、私自身、いち野球人としてたくさん元気をもらいました。
中でも印象に残っているのが「40-40」(40本塁打、40盗塁以上)をサヨナラ満塁ホームランで達成した8月23日のタンパベイ・レイズ戦ですね。ドジャースタジアムで行われた、この試合、既に39本塁打、39盗塁をマークしていた大谷選手は第2打席に内野安打で出塁すると、1死後、二盗を成功し、自身初の40盗塁を記録し、大記録にリーチをかけました。
ナ・リーグ西地区でサンディエゴ・パドレス、アリゾナ・ダイヤモンドバックスが追いかけてきている中、チームにとっても価値の一発でした。6打数6安打2本塁打10打点2盗塁を叩き出し、MLB史上初となる「50-50」達成した試合(9月19日、フロリダ・マーリンズ戦)も素晴らしい記録ですが、「40-40」をサヨナラ弾で決めたのが印象に残っています。
私自身、現役時代に3本ほどサヨナラホームランを打った経験があります。サヨナラを期待しつつ、ベンチは延長戦、その先を睨んだ起用を考える。一発で勝敗が決まるという緊張感の中、大記録を成し遂げるのが彼の素晴らしいところ。私もバッターボックスに立った時、“ここでホームラン打ったらヒーローだ”ということは頭に描きますが、それは簡単に実現できることではありませんからね。
大谷選手はワールドシリーズでは第2戦でケガをしたため、目立った活躍はできなかったかもしれませんが、パドレスとの地区シリーズを制したことが、ポストシーズンでのチームを勢い付ける結果に繋がったと感じます。もちろんワールドシリーズを戦ったアメリカン・リーグ王者のニューヨーク・ヤンキースも素晴らしいチームですが、打線の厚みという点ではパドレスの方が難敵だったように思います。ルイス・アラエス選手、マニー・マチャド選手、ジュリクソン・プロファー選手、フェルナンド・タティス・ジュニア選手らが並ぶ打線は穴がない。
それだけに第1戦の大谷選手の同点3ランは価値のある一発でした。レギュラーシーズンでは3勝5敗と負け越していた相手に初戦を7-5で打ち勝ったのはポストシーズンの流れを引き寄せるには十分な1勝だったと思います。ドジャースは11年連続のポストシーズンゲーム進出でしたが、ここ2シーズンは地区シリーズ敗退。それだけにパドレスを破ったことが、その後のリーグチャンピオンシップ、ワールドシリーズ制覇の起点となったのは間違いありません。
若手中心に挑んだ侍ジャパン
来年は日本で開催されることもあり、早くもマスコミはピッチャー大谷の復活を期待していますが、私は復帰を焦らず、5月以降でいいと思っています。彼は球界の宝。ドジャースは長期契約を結んでいますし、無理をさせることはないでしょう。もちろん投手復帰すれば、サイ・ヤング賞獲得を私も期待しています。
先日、神宮野球大会の視察に行きましたが、トヨタ自動車東日本硬式野球部の大谷龍太コーチに会いました。そう彼は大谷選手のお兄ちゃん。四国アイランドリーグplus(2010〜11年、高知ファイティングドッグスドッグスに所属)、社会人野球という接点もあり、彼から挨拶しに来てくれます。世間話程度ですが、10分ほど話をしました。彼も大谷選手と同じでナイスガイなんです。
11月はWBSCプレミア12が日本、台湾などで開催されました。前回優勝の侍ジャパン(野球日本代表)は連覇こそ逃しましたが、オープニングラウンド5試合、スーパーラウンド3試合を連勝で決勝まで駆け上がりました。
セガサミー硬式野球部はプレミア12開幕直前の練習試合でオーストラリア代表と対戦しました。その際、井端弘和監督が偵察に来ていて、雑談程度でしたが15分ほど話しました。侍ジャパンは“勝って当たり前”と見られている中、決勝まで進んだのは見事でしたね。村上宗隆選手、岡本和真選手といった大砲不在でなかなか点を取ることが難しいかなと思っていましたが、ふたを開けてみれば打線の繋がりが見て取れました。
私の古巣・広島カープから選出された小園海斗選手はレギュラーシーズン2本塁打ながら、21日のアメリカ戦で1試合2発の大活躍。短期決戦の集中力を見せ、4割近い打率をマークし、井端監督の期待に応えて見せました。カープOBとしては坂倉将吾捕手の活躍もうれしかった。また阪神の森下翔太選手は全9試合に出場し、チームトップの9打点を挙げました。今回は若手中心のメンバーでしたが皆、力を発揮してくれたと言っていいのではないでしょうか。
3度目の対戦となった台湾は、決勝前日のスーパーラウンドで先発予定の投手を直前で変更したという報道がありました。国際大会はいろいろなことがあるものです。選手に助けられた部分もありましたが、井端監督の采配も概ね当たっていたかと思います。予想が外れてもうまくいって勝つことがあれば、予想通りにいっても勝てないことがあります。計算通りにはいかないのが野球、そして采配の面白いところでしょう。
さてセガサミーは11月いっぱいまで強化練習に充てました。今年は都市対抗野球、社会人日本選手権大会の本戦に進めなかった分、もう一度選手たちを鍛え直しています。会社に投資してもらっているわけですから、それに見合うように会社を元気にするくらい活躍を見せないといけませんね。12月はボランティア活動や野球教室をしたりして、地域活動もしていくつもりです。
今年のコラムはこのへんで。来年もセガサミーの応援を宜しくお願いいたします!
<このコーナーは毎月1日更新です>
<西田真二(にしだ・しんじ)プロフィール>
1960年8月3日、和歌山県出身。小学3年で野球を始める。PL学園高、法政大学を経て、83年にドラフト1位で広島カープに入団。高校時代は78年夏にエース&4番として甲子園優勝に貢献した。大学時代は5度のベストナインに輝くなど、3度のリーグ優勝に導いた。プロ入り後は左投げ左打ちの外野手として、91年のセ・リーグ優勝に貢献するなどカープ一筋13年で現役を終えた。現役引退後は野球解説者を経て、カープ、四国アイランドリーグ(現・四国アイランドリーグplus)の愛媛、香川などで後進を育成。20年よりセガサミー野球部の監督を務める。