天羽進亮(東洋大学体育会ラグビー部/徳島県吉野川市出身)第3回「スタンドオフへの転向」
「稲さんの話を聞いて、すごく興味が湧いた」
天羽進亮(あもう・しんすけ)は、小学5年生から中学卒業まで続けていたサッカーからラグビーに転向した理由を語った。彼の呼ぶ「稲さん」とは徳島県立城東高校ラグビー部のS&Cコーチで、トレーニング施設のSAMURAI stability®(サムライスタビリティ)の代表でもある稲垣宗員(いながき・ひろかず)のことだ。
天羽はラグビー未経験者であるものの、城東には特色選抜と呼ばれる、いわゆる推薦入試制度があった。その推薦枠で天羽は城東に進学した。
サッカーとラグビーは“兄弟競技”とも言われるが、全く別のスポーツだ。ボールのかたちが違えば、制限されるプレーも違う。特に違うのがタックルの性質だろう。サッカーは肩対肩が許されているが、それ以外の箇所をぶつけて相手を倒せば反則となる。スライディングタックルはボールにいくもの。ラグビーは相手を捕まえてから押し倒す、または引き倒すのが基本だ。それでも天羽は「(ラグビーの)タックルは怖くなかった」と、すぐに順応できた。
「元々の性格がラグビー向きだったのかもしれません」と自己分析し、こう続けた。
「もちろん身体をぶつけ合うことは痛いけど、チームのために身体を張ったら褒められる。それがうれしかった」
最初のポジションはフランカー(FL)だ。
「入った時から、稲さんには『進亮はFLだ』と言われていました。バックス向きじゃない、と。でもそのおかげで今の自分がある」
タックラーとしての矜持はこの時に培っていった。
稲垣は「コンタクトプレーに関しては、すぐに順応した。同期にいるラグビー経験者よりもタックルできる」と当時を振り返る。
「お父さんの身長が183cmくらい。進亮も180cmまで伸びたら、ナンバーエイト(No.8)をやらせてみたいと思ったんです。彼は身体を張るのでフォワードのイメージが強かった。ウイング(WTB)やフルバック(FB)で試した時は、パスをうまく捕球できなかったのでバックス向きじゃないと思ったんです。私は性格でポジションを決めた方がいいという持論があります。身体が大きいからフォワードではなく、目立ちたがり屋で、ボールを持って走る時に力を発揮するヤツはバックスをやらせた方がいいし、逆に身体が小さくても黙々と粉骨砕身できるヤツは、フォワードをさせた方がいい」
ラグビー初心者の天羽は先輩たちに必死に食らいついていった。1年の秋にはAチームに入り、FLとして試合で起用されるようになった。冬の全国高校ラグビー大会、通称・花園のピッチにも立った。1回戦の新潟工業戦は出番こそなかったものの、Bシードの日本航空(石川)との2回戦では「6」を背負った。試合は0-35で敗れたが天羽自身、ノーサイドまで身体を張り続け、留学生にも果敢にタックルにいった。
花園の思い出
この時の天羽に芽生えたのは“もっと花園で活躍したい”との思い。当時は線が細かったこともあり、食事の量、回数を増やし、肉体改造を試みた。
「稲さんからはトレーニングだけではなく、機能神経学を教わりました。身体だけじゃなく脳を鍛えてもらいました。稲さんの指導は、僕たちが楽しくできるようにしてくれる」
高校2年になる直前、天羽は監督の伊達圭太からスタンドオフ(SO)への転向を提案された。正SOを務めていた2学年上の三木海芽が卒業するなど、チーム事情もあったわけだが、天羽本人も「オレ、SOするんや……」と驚きのコンバートだったという。
「面白そうだな、と思いました。また卒業前に海芽さんがいろいろと教えてくれた。“身体を張るだけじゃないんや”と勉強になりました」
SOはゲームメイクを任され、頭を使うポジションだ。天羽は「メチャクチャ、パニックになりました」と本音を明かす。それでも「先輩たちが声を掛けてくれた」と支えられたことで、日々の練習から力を付けていった。
この年は多くの学生スポーツが新型コロナウイルス感染の拡大により、大会が中止、延期となった。それだけに天羽たちも花園に懸ける想いは強かった。
「この大会だけだったので、みんなで『出し切ろう!』と話していたんです」
迎えた花園は1回戦で新田(愛媛)に31-29の逆転勝ちを収めた。2回戦で尾道(広島)に5-64で大敗を喫したが、天羽はわずか4分足らずで交代している。開始すぐに味方との接触プレーで、脳震盪となり交代を余儀なくされたからだ。
不完全燃焼でシーズンを終えたため、翌年、最終学年を迎えた天羽は一層燃えていた。ポジションは変わらずSO。バイスキャプテンを任された。
「3年生のまとめ方でチームは変わってくるので、マイナスになる行動や発言はせんように気を付けました」
花園は1回戦で米子東(鳥取)に70-0と大勝。「10」を背負った天羽は先制トライを含むハットトリックの活躍を見せた。続くBシードで前年準優勝の京都成章戦は7-35で敗れたが、後半7分に天羽が一矢報いた。それまではあまりボールを持って仕掛けず、パスを繋いでいた。そのおかげで生まれたディフェンスラインのギャップを突いて、トライを挙げたのだ。3年連続で2回戦敗退と、これまでの“壁”は超えられなかったものの、このトライは天羽自身にとっても印象に残る会心の一撃だった。
城東で3年連続花園を経験した天羽は高校卒業後、関東大学リーグの東洋大学に進む。他大学から誘いを受けていたが、見学に訪れ「“ここでラグビーをしたい”と感じた」ことが決め手となった。進学を決めたタイミングでは、関東大学リーグ2部だったが、秋の入れ替え戦に勝利し、29年ぶりの昇格を果たしていた。
(最終回につづく)
<天羽進亮(あもう・しんすけ)プロフィール>
2003年4月7日、徳島県吉野川市出身。小・中学校はサッカー部に所属。城東高校ラグビー部でラグビー部に入部し、ラグビーを始める。同高で1年時からレギュラーの座を掴み、1年時はフランカー、2年時からスタンドオフを務めた。全国高校ラグビー大会(花園)には3年連続で出場した。22年に東洋大学入学。2年時からスタンドオフのレギュラーに。3年時は秋のリーグ戦全7試合でスタメン出場し、2年ぶり2度目の全国大学選手権出場を果たす。身長174cm、体重82kg。リフレッシュは温泉に入ること。
(文・写真/杉浦泰介)