天羽進亮(東洋大学体育会ラグビー部/徳島県吉野川市出身)最終回「逆襲に燃える“情熱のファイター”」

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 2022年春、天羽進亮(あもう・しんすけ)は高校卒業後、生まれ育った徳島県吉野川市を離れ、埼玉県川越市に寮・練習場を置く関東大学ラグビーリーグ1部の東洋大学に進んだ。「2部にいた頃から観ていましたが、みんな身体を張るチームで、“すごくいいな”と好印象を持っていました」。天羽が入学したのは1部に昇格したばかり。夏にはグラウンドも整備された。前年秋にはリーグワンの埼玉パナソニックワイルドナイツと提携するなど、環境が目まぐるしく変わり始めていたタイミングだった。

 

 東洋大の福永は、天羽が徳島県立城東高校2年生時から目を付けていた。既にスタンドオフ(SO)に転向しており、福永も司令塔として評価していた。「裏表のない元気な印象がありました。10番としてもいい選手。チームとしてリーダーが必要な段階だった。天羽には当時から“ガキ大将”として引っ張っていくような雰囲気を感じました」。将来のリーダー候補として、天羽に声を掛けたというのだ。

 

 川越のグラウンドでは東洋大のフィロソフィーと言える“凡事徹底”の精神を叩き込まれた。
「練習でできないことは試合でもできない。ひとつひとつの動作にもこだわる。ミスをしたボールはすぐ拾い、ターンオーバーされたらすぐディフェンスに戻る。プレーの丁寧さを意識するようになりました」

 先輩たちからは可愛がられ、親元を離れての寮生活も「こんなに楽しいんやと思いました。みんないい人やし」と苦にならなかった。

 

 東洋大の特徴のひとつが多様性軍団であることだ。南アフリカ、ニュージーランド、トンガなど様々なルーツを持つ選手が集まっている。城東に留学生はいなかった。戸惑うことはなかったのか。「東洋の留学生はみんなパッションがありますね。それにみんな真面目です」と天羽。彼自身、英語が得意なわけではないが、持ち前の“コミュ力”で留学生たちとも打ち解けているという。

「寮内でも、チーム練習でもコミュニケーションをたくさん取っています」

 

 天羽は1年時から出場機会を得た。秋のリーグ戦で、チームは開幕戦から東海大学を破るなど快進撃を見せ、3位に入った。初の大学選手権進出を果たしたチームの中で天羽も7試合中2試合でリザーブ入りし、リーグ戦デビューも果たした。

 

 3学年上の司令塔・土橋郁也(どばし・ふみや)が卒業し、天羽は2年時から正SOに抜擢された。しかしチームは3勝4敗で5位に終わり、2年連続の大学選手権出場はかなわなかった。
 だからこそ迎えた今シーズンは期するものがあったのだろう。オフから関東1部の「10」として戦える身体づくりに取り組んだ。

 

 秋のリーグ戦初戦は、大東文化大学に20-26で敗れた。今季からプレースキッカーを任された天羽は4本のコンバージョンキックを全て外した。チームを勝たせられなかったことで火が付いた部分もあったのだろう。福永によれば「目の色が変わった」という。
「9月から練習を取り組む姿勢が一段階、二段階上がった。高強度の試合を経験していけば、もっといい10番になれる」

 

 そこから法政大学、流通経済大学、東海大、関東学院大学を破り、白星を先行させた。立正大には敗れたものの、最終戦の日本大学戦で勝利し、2年ぶり2度目となる大学選手権出場を決めた。この年も全7試合で「10」を背負った天羽はチームを勝利に導く活躍を見せ、2度のプレーヤー・オブ・ザ・マッチ(POM)にも輝いた。

 

失敗を成長の糧に

 

「去年はミスをしたり、プラン通りいかないとパニくっていました。今年はミスをしても、“ヤバイ”と焦ることもなくなりました」

 前年の失敗が成長の糧となっている。冷静に試合運びができるようになった。天羽はただでは転ばない。

 

 2度目の大学選手権は「自分のプレー、選択で勝ち負けが決まる」と意気込んでいた。そして迎えた12月14日、東京・秩父宮ラグビー場で行われた大学選手権3回戦は、関東大学対抗戦グループA4位の慶應義塾大学と対戦した。大学選手権初勝利に燃える東洋大だったが、慶大の出足の鋭いディフェンスに手を焼き、思うように攻められなかった。また風下の東洋大は天羽が蹴ってもボールが押し戻される強風にも悩まされた。5分に先制点を許すと、37分までに35点差も付けられた。

 

「どうエリアを取るか、僕がもっと考えなければいけなかった」

 天羽は試合後、反省したが、光るプレーも随所に見られた。前半終了間際、自陣インゴール内でパスを受けると、左サイドのWTBモーリス・マークス(4年)にキックパス。「慶應大学さんのディフェンスは(前に)詰めてくる。蹴ったら空くかなと思いましたし、(ペナルティーの)アドバンテージもあったので」。仲の良いモーリスとのホットラインで、反撃の狼煙を上げるトライを演出した。

 

 後半、キックオフからチャンスをつくったのは東洋大。敵陣に入る時間が続いた。だが7分には敵陣深くで、天羽が外側を狙ったパスをインターセプトされた。そのままインゴール左隅に持っていかれた。「WTB陣の前は空いていた。そこにボールを運びたかった」と肩を落とした。大外にもう2人、味方がいたことを考えれば、飛ばしパスであればトライになったかもしれない。結果論ではあるものの、惜しまれるシーンだった。

 

 結局、東洋大の反撃も届かず、26-50でノーサイド。天羽はフル出場し、任されたコンバージョンキック3本は全て決めてみせた。チームも自身もリーグ戦で見せたパフォーマンスは十分に発揮できなかった。
「大舞台でもっと味方を生かしたかった……」

 

 これで東洋大の24年度のシーズンは幕を閉じた。来年度の天羽は最上級生として、チームをこれまで以上に牽引することが求められる。
「もっとうまくエリアを取って、東洋の強いFWたちをどう生かすかを考えていきたい」

 

 再び福永。大学選手権3回戦で、慶大に敗れた後、天羽への期待を込めて、こう語っていた。

「天羽は心も身体もチームの中心としてリーダーシップを発揮できる選手。前面に立って、リーダーシップを発揮しつつ、チームを勝負に導ける10番になって欲しいと期待しています。もちろん彼が努力している姿を見ていますし、それがパフォーマンスにも表れている。そこは続けていって欲しい。10番は、もちろん常に勉強だし、経験が必要なポジション。ただ、試合の後に彼にも言いました。『もう“経験”というのは、これで終わりにしよう』と」

 

 天羽の好きな言葉は「情熱」。気持ちを全面に出すタイプで、東洋大を象徴するような選手だ。彼にとって挫折は薪をくべるようなもの。今シーズン、掴んだ手応えと、味わった悔しさを燃料にするはずだ。ファイターであり、コンダクターでもある彼の“逆襲”のターンは、もう始まっていると言っていいかもしれない。

 

(おわり)

>>第1回はこちら

>>第2回はこちら

>>第3回はこちら

 

天羽進亮(あもう・しんすけ)プロフィール>

2003年4月7日、徳島県吉野川市出身。小・中学校はサッカー部に所属。城東高校ラグビー部でラグビー部に入部し、ラグビーを始める。同高で1年時からレギュラーの座を掴み、1年時はフランカー、2年時からスタンドオフを務めた。全国高校ラグビー大会(花園)には3年連続で出場した。22年に東洋大学入学。2年時からスタンドオフのレギュラーに。3年時は秋のリーグ戦全7試合でスタメン出場し、2年ぶり2度目の全国大学選手権出場を果たす。身長174cm、体重82kg。リフレッシュは温泉に入ること。

 

 

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(文・写真/杉浦泰介)

 

 

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