“近年稀に見る大混戦”――。
 今週末から開幕する今季のNBAプレーオフについて、そんなふうに語る識者は多い。3連覇を狙うロサンゼルス・レイカーズ、マイケル・ジョーダン時代以来のファイナル制覇を目論むシカゴ・ブルズ、怪物レブロン・ジェームスをはじめとする“ビッグスリー”の力で頂点を目指すマイアミ・ヒート、伝統の強豪サンアントニオ・スパーズ、通算18度目の優勝を狙うボストン・セルティックス……と実力派チームは目白押し。
(写真:プレーオフの大舞台は力を発揮する選手もいれば、萎縮してしまう選手もいる)
 さらに若手タレントを数多く抱えるオクラホマシティ・サンダー、現役最強センターのドワイト・ハワードを擁するオーランド・マジックなども侮れない。今季の場合、この中からどこがファイナルに勝ち進んでも特に驚くべきではないだろう。
 そんな群雄割拠の争いの中から、今回は特に注目に値する4チームをピックアップして見ていきたい。いずれも強いだけでなく、さまざまな意味で話題豊富なこの4チームが、今季プレーオフを大きく盛り上げてくれることは間違いない。

【ブルズ 〜ファイナルに返り咲きなるか〜】

 マイケル・ジョーダンが去って以降、長く不遇の時代を過ごしてきたブルズとそのファンが、再び夢を託せる選手が現れた。
 その名はデレック・ローズ。08年にドラフト全体1位でブルズに入団したローズは、期待通りに力をつけ、今季はMVP最有力候補となるほどに成長してきた。

 気取りのない性格でも知られるローズは、カルロス・ブーザー、ルオル・デン、ジョアキム・ノアらのサポーティングキャストとも上質なケミストリーを奏でている。また、プレーオフを通じての第1シードを獲得したおかげで、“3強”を形成するセルティックス、ヒートとカンファレンス・ファイナルまで対戦せずに済むのも好都合。今季、大躍進したブルズが、このまま一気に15年ぶりのファイナルに進出すると見る識者も多い。

 ただ、ディフェンスを固め、ローズの突破力から活路を見出すブルズの勝ちパターンが、プレーオフでも通用するかはまったくの未知数。経験、サイズ不足といった明白な弱点を抱えているだけに、決して楽な戦いにはならないだろう。
 着実に階段を上ってきたローズの快進撃は、いったいどこまで続くのか。開幕前はほとんど無印だったブルズをファイナルにまで導けば、ローズは一気に全米的なヒーローの座にまでたどり着きそうである。

【ヒート 〜“ビッグスリー”の行く末〜】

 昨夏にレブロンとクリス・ボッシュがヒートに移籍し、ドウェイン・ウェイドと“ビッグスリー”を形成すると発表したとき、全米の多くのNBAファンは驚き、そして憤慨した。
 これから全盛期を迎える3人の若手スターが、同じチームでプレーしようと試みることなど前代未聞。特にレブロンの言動が故郷クリーブランド・キャブズ(キャバリアーズ)への尊敬を欠いていたがゆえに、多くの批判にさらされることにもなったのだ。
(ドウェイン・ウェイド(写真)とレブロンが率いるヒートのゲームには全米が釘付けになるだろう)

 あれから約7カ月―――。FA戦線の衝撃はさすがに徐々に風化したが、しかしヒートがアメリカ中から最大の注目を集めるチームである点は変わっていない。
 シーズン中は58勝24敗の成績でまとめ、手堅くイースト第2シードを獲得。当初はケミストリーの不安が囁かれたものの、最後の14戦で12勝という結果が示す通り、チームプレーは徐々にスムーズになっていった感もある。

 それでももちろん、真価が測られるのはプレーオフ。そして「近年で最も嫌われているチーム」と称されるヒートの敗北を、地元以外の多くのファンが望んでいるのも事実である。否定論者を見返し、“約束の地”ファイナルにたどり着けるかどうか。“審判の日”は、もう間近に迫っている。

【ニックス 〜久々のビッグステージへ〜】

 しばらくは泥沼の不振に喘いできたニックスが、7年ぶりにプレーオフの大舞台に戻ってくることになった。
 昨夏に現役有数の攻撃型ビッグマンであるアマレ・スタウダマイヤーと契約したのに続き、今季トレード期限にはカーメロ・アンソニーとチャンシー・ビラップスも獲得。近年のNBAの流行りに乗り、ニックスも自前の“ビッグスリー”を確立するに至った。
(写真:殿堂マディソンスクウェア・ガーデン(ニックスの本拠地)に再びプレーオフの光が灯ろうとしている)

 セルティックス(ポール・ピアース、ケビン・ガーネット、レイ・アレン)やレイカーズ(コービー・ブライアント、ポウ・ガソル、ロン・アーテスト)の三大スターと比べ、ニックスの3人が攻撃偏重すぎるのは事実である。さらに3人揃ってプレーできた期間が短すぎることもあって、準備不足は明白。現時点でプレーオフ上位進出を期待するのは酷だろう。

 しかし今のニックスはとりあえずスター性は抜群。少なくとも、再びNBAファンから興味を持たれる存在となったことだけは確かである。
 プレーオフ第1ラウンドの相手は、百戦錬磨のセルティックス。サイズと守備力を高レベルで備えた相手だけに、相性は良いとは言えず、ニックスの惨敗濃厚という予想が多い。しかしカーメロ、アマレの両輪の得点力が爆発すれば、老雄を苦しめることも不可能ではなさそう。“名門復活の年”に相応しく、最後は敗れるにしても、将来に希望を持たせるような結末を期待したいところである。

【レイカーズ 〜3連覇なるか〜】

 そして最後に挙げるべきは、もちろん3年連続ファイナル制覇を狙うレイカーズである。今季はもう1つ煮え切らない戦いぶりで、ウェスタンカンファレンスの第1シードをスパーズに奪われた。しかし最初からプレーオフに照準を合わせたこのチームの場合、シーズン中の停滞に大きな意味などない。

 ガソル、アンドリュー・バイナム、ラマー・オドムというサイズと技術を兼ね備えた3人のビッグマンがインサイドを支配し、ペリミターにもコービー、アーテストという切り札も擁する。経験豊富な選手たちが気を引き締めて臨んでくれば、ディフェンス面でスキはない。たとえ接戦に持ち込まれても、コービーという最強のクローザーが効いてくる。攻守のバランスに富んだレイカーズを、7戦シリーズで倒すのは並大抵ではないだろう。
(写真:もしレイカーズを3連覇に導けば、コービーはジョーダンと並ぶ通算6個目の優勝リング獲得となる)

 そして今プレーオフでは、組み合わせにも恵まれた感がある。第1ラウンドではパンチのないニューオリンズ・ホーネッツと対戦し、第2ラウンドでは勝負弱いマブス(ダラス・マーべリックス)との激突が濃厚。最も厄介だと思われるサンダー、スパーズ、デンバー・ナゲッツはすべて反対ブロックに属しているため、とりあえずカンファレンス・ファイナルまではそれほど大きなトラブルもなく勝ち進めそうな気配もある。だとすれば、「大混戦」と言われる今季プレーオフも、本命を挙げるとすればやはりレイカーズになるのか。

 ただ……去年のレイカーズはプレーオフ1回戦でサンダーに大苦戦を味わい、そこで目を覚ました感があった。以降は手綱を引き締め、気の緩みのないまま歩んでいった。
 一方で今季は比較的容易なマッチアップで勝ち進んだとして、カンファレンス・ファイナル、ファイナルでは逆にサバイバル戦を生き残ってきた筋金入りの強豪と連戦せねばならない。組み合わせに恵まれ過ぎたことは、決して幸いにばかり働かないような気もするのだが……。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

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