Sフェザー級・堤駿斗、完勝TKOで世界戦挑戦権獲得「ひとつひとつ積み上げていきたい」 ~ボクシング~
31日、ボクシングのWBA世界スーパーフェザー級挑戦者決定戦が東京・大田区総合体育館で行われ、同級9位の堤駿斗(志成)が、同級14位で元王者のレネ・アルバラード(ニカラグア)を8ラウンド1分55秒TKO勝ち。通算戦績を6戦全勝(3KO)とした。
空席の目立つ、プレスルームやスタンド。それもそのはずだ。本来予定されていたメインイベントのWBA世界スーパーフライ級タイトルマッチは王者フェルナンド・マルティネス(アルゼンチン)のインフルエンザ感染により中止となったからだ。
マルティネスと対戦予定だった井岡一翔(志成)がメインイベントの前にリングに上がり、こう挨拶した。
「自身13度目となる大晦日の日に、マルティネス選手にリベンジした姿をお見せし、勝利者インタビューで、皆さんにご挨拶させてもらいたかった。こういう形になってしまい、楽しみにしていただいていた皆さんに、本当に申し訳ない気持ちです。ただ、これで終わったわけではないので、マルティネス選手と引き続き交渉してもらって、試合ができるようにしてもらえるよう話を進めてもらう。自分自身も引き続き頑張りますので、応援よろしくお願いします」
マルティネスとの仕切り直しへの交渉を続ける意向を示し「来年必ず世界チャンピオンになる姿をお見せするので、楽しみにしていてください」とファンの前で誓った。また自身に代わってメインイベンターを務めるジムの後輩・堤について、「僕の代わりにメインイベントを素晴らしい試合で締めくくってくれると思うので、皆さん応援よろしくお願いします」と観客にサポートを呼びかけた。
先輩からのエールを受けた堤は2024年の締めくくり役を全うした。世界ユース選手権大会のフライ級で金メダルを獲得するなどアマ13冠を引っさげてプロデビューした25歳のホープ。元王者相手に完勝だ。プロ49戦目の35歳アルバラートに「相手は旬にいる選手。世界チャンピオンになる素質がある」と言わしめた。
試合は序盤から左ジャブで距離を掴みに行く。本人曰く「もたついた」とのことだが、アルバラードにペースは与えなかった。5ラウンドには左を当てて、相手をロープ際に追い込んだ。仕留め切れなかったようにも映ったものの、本人は冷静だったという。「相手がタフなので、ここでいくともたついてしまう恐れがあった」。焦って倒しに行くのではなく、アルバラードの体力を削ることを選んだのだ。
「判定続きだったので倒してスッキリ終えたかった」
興行の“大トリ”を務める自覚である。「もう1回チャンスは来る」。堤の見立て通り、8ラウンドに再び左でコーナー付近に追い込むと、堰を切ったように猛ラッシュを仕掛けた。メッタ打ちとなったアルバラード。レフェリーが2人の間に割って入り、試合を止めた。堤は「それなりに合格点。もっとできるという悔しさもあるが、終わりよければすべて良し」と自己採点。セコンドの佐々木修平トレーナーは「完璧でした。やりたいことは全部できたので何も言うことはないです」と評価した。
今年4月、WBA世界バンタム級元王者のアンセルモ・モレノ(パナマ)とフェザー級で対戦したが、新型コロナウイルスに感染した影響もあり、前日計量で約1.6kgオーバー。試合は行ったものの、半年間のライセンス停止処分を受けた。一時は引退も過ったというが、家族、関係者の支えもあり、「ここでやめても恩返しができない」と、再びリングに戻ることを決意した。
「前回の失態から8カ月、このリングに戻ってこられたことに感謝しています。アルバラードという強い選手にいいかたちで勝てたこと、2024年最後の日に試合できたことをうれしく思っています。すぐに世界とか言うつもりはまだなくて、来年は強い選手たちにひとつひとつ、この階級で勝っていくことで、また見てもらえる選手になっていけると思うので、ひとつひとつ積み上げていきたい」
これで挑戦権へを得たとはいえ、WBA王座だけに一筋縄ではいかなそうだ。現在、正規王者がラモント・ローチ(アメリカ)、暫定王者がアルベルト・バティルガジエフ(ロシア)と王者が2人いる状態。ローチは3月に1階級上のWBA世界ライト級王者ジャーボンテ・デービス(アメリカ)に挑むことが決まっている。「世界に挑戦する機会はなかなか待っててもこない。もし、やれるとなったら自分は行きます。それはタイミング」と堤。試合直後、祝福された先輩の井岡と誓い合ったベルト獲りを実行しに行く。
(文・写真/杉浦泰介)