4月を終えて7勝2敗。予想以上にいい滑り出しができました。シーズン前は投手陣が頑張り、攻撃陣が足を絡めて少ないチャンスをモノにする戦い方を想定していたのですが、今は非常に打線が好調です。
 しかも現状、扇の要が不在です。4月9日の開幕戦では捕手の山村裕也が左手首を骨折して途中交代。代わりに入った坂井広和(福岡オーシャンズ9)も負傷してしまいました。急遽、練習生から藤田卓(備前緑陽高)を昇格させたものの、経験不足は明らか。
「誰か他にキャッチャーやっていたヤツ、いないのか?」
 その時、名乗りをあげたのが、セカンドを守っていた國信貴裕です。聞くと大学時代には捕手もやっていたとか。実際にマスクを被らせると、リーグでの経験が長いだけに、各打者の特徴をとらえたリードをしていました。翌週からは、本職の捕手を押しのけ、ずっとスタメンで起用しています。

 さらに打っては3番で.382。捕手をしていることで運動量が増え、下半身が鍛えられたのでしょうか。土台がしっかりしたスイングができています。扇の要が不在の中、その穴を感じさせない國信の働きはうれしい“誤算”です。

 打線では大分大からやってきたサードの松嶋亮太が打率.441で目下、首位打者です。彼がこの段階で打ちまくるとは想像しませんでした。なぜなら、春のキャンプから彼の打撃には欠点があり、フォームを改造していたところだったからです。

 入団時の松嶋は、打撃が固く、バットの出が悪い欠点がありました。そこでグリップの位置を下げて、バットが出やすくするかたちに変更したのです。通常、新しいフォームに順応するのは時間がかかるもの。ただ、彼には根鈴雄次からアドバイスをもらったり、いち早く新打法に適応していきました。こんなに早く結果が出るとは、まさにうれしい“誤算”です。

 攻撃陣は4割打者が3人とよく打っている一方、投手陣はピリッとしません。4月26日の愛媛戦では打線が20得点をあげたものの、投手陣が12四死球を与え、9失点。1試合に10回以上も相手を1塁に歩かせていれば普通は勝てません。

 徳島の投手陣は誰もが最低限2ストライクまで追い込むことができます。ところが、そこから「追い込んで打たれたくない」との意識が芽生えてしまうのです。際どいコースを狙って、ボールが続くと、今度は「ストライクを入れないとマズイ」との焦りが生まれます。これでは余計にストライクが入りません。

 この思考法のどこが問題なのか。それは「打たれたくない」と思いすぎてしまうことです。どんな好打者でも野球は3割しか打てません。打たれてもバックには7人の野手が守っています。いい意味での思い切りの良さが選手たちには求められています。

 このゴールデンウィークは愛媛、香川と続く6連戦。愛媛には個人的にも因縁のある相手ですし、負けたくないとの思いは強いです。また香川は借金を抱えているとはいえ、昨季の覇者ですから、ここに勝ってこそ勢いがホンモノになると思っています。4勝2敗で突破するのが当面の目標です。
 
 先にあげた4月26日の愛媛戦では、初回に5点を奪われながら、ベンチには、まだまだこれからという雰囲気が充満していました。すると直後に11点のビッグイニング。過去に優勝が1度もなく、負けグセがついていたチームに、「少々の劣勢でも勝てる」という流れができてきています。

 いいスタートダッシュができただけに、前期は是が非でも優勝したいものです。打撃は水物というように、いつまで打線がつながるかわかりません。それでも投手陣を中心に日替わりヒーローが誕生し、勝ちを重ねていく。それが初優勝へ必要な条件だと考えています。ファンの皆さんの応援で、これを後押ししていただければ幸いです。よろしくお願いします。


斉藤浩行(さいとう・ひろゆき)プロフィール>: 徳島インディゴソックス監督
1960年5月10日、栃木県出身。宇都宮商から東京ガスを経て、82年にドラフト2位で広島入り。パワーを武器にポスト山本浩二として期待を集める。目のケガもあって1軍ではなかなか活躍できなかったが、2軍では3度の本塁打王を獲得。ファーム通算161本塁打は最多記録として残っている。89年に中日、91年に日本ハムへと移籍し、92年限りで引退。06年からは愛媛のコーチを6年間に渡って務めた。11年より徳島の監督に就任。現役時代の通算成績は228試合、打率.196、16本塁打、41打点。
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