『ROUND AFTER ROUND.5』Specialな劇場。変わらぬism ~D.LEAGUE~

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 日本発のプロダンスリーグ『D.LEAGUE』の24-25シーズン、 LIFULL ALT-RHYTHM(ライフル アルトリズム) は2季ぶりのチャンピオンシップ(CS)出場、初のリーグ制覇を目指す。今季から永井直也がディレクター兼任となり、メンバーにパリオリンピックブレイキン女子金メダリストのAmiらが加わった新体制で臨んでいる。

 

 昨年12月26日に行われたROUND.5では、Specialな布陣でSEGA SAMMY LUX(セガサミー ルクス)との1stMATCHに臨んだ。ヒップホップのMacoto、ジャズのKosuke、ワックのMaridというスペシャリストをSPダンサーで起用した。ディレクターの永井直也は「3人に共通するのは踊らなくても画になること。極端に言えば、立っているだけでも人を魅了できるんです」と言い、こう続けた。

 

「MaridはCHIHIROとcalinさんが言うように『すごい人』。ワックのトップクラスの3人が踊っている姿を見た時、“これは贅沢なものを見られているなぁ”と思ったほど、痺れました。Kosukeくんは何でも器用にできるダンサー。彼のダンス、表現は美しさの中に薔薇の棘みたいなものがある。それでいて見ている人の涙を誘うような温かい踊りもできるダンサーです。Macotoくんは何でも踊れるし、何でも自分のものできる。ヒップホップ、スワッグに限らずジャズもめちゃくちゃ巧いんです。彼はザ・アーティスト。ダンスについてくる表情がたまらなく人に届く。妖艶さがあり、見ている人の心を躍らせ、惑わせもする。SPの3人はいろいろなキャラクターをリアルに落とし込める。中途半端にならない。僕もすごく勉強になりました」

 

 このラウンドでは、今季初出場となったディレクターの永井直也がエースパフォーマンスを担当した。メンバーのcalinはラウンド終了後の囲み取材で、「今季からディレクターになった永井直也くんは出るかどうか迷っていたみたいですが、あのSPたちを呼んで出ないわけにはいかないというメンバーからの後押しと、“出るならエースでしょ”ってことになりました」と語っていた。

 

 ダンサーとして出場することに迷いがあったのはディレクターとしての顔を持つからだ。参入初年度(21-22シーズン)のROUND.7の作品でディレクションを任されたことはあったが、最後まで1人で完成できなかったことがあった。

「基本的にはディレクターとしてかじ取りをしなければいけないので、迷いました。でもギリギリまで迷うと自分にも、みんなにも負担がかかるので、割とすぐに決めました。ROUND.4はSPディレクターを碓井菜央さんと藤村港平くんにお願いしていた。その間、僕はROUND.5の構想を練っていました。基本的なことは頭の中でできていた。KosukeとMacotoに関しては舞台を一緒にやった仲でしたし、自分が中にいても大丈夫だと思えたのは、“このメンバーなら大丈夫”という信頼が大きかった」

 

 映写機が回るような音を響かせながら、この日の“アルトリ劇場”は開演した。オペラ歌手とシャンソン歌手が織りなす劇中歌、儚げな雰囲気のメロディーに乗り、8人が優雅にステージを舞った。シンクロパフォーマンス後のエースパフォーマンスは永井直也が美しくしなやかなアクロバットを披露。新体操で全日本選手権優勝というキャリアを持つ彼の売りは、この美しくしなやかな空中技だ。B-BoyやB-Girlが魅せる豪快な跳び技とは異なった趣がある。

「僕のアクロバットはウチのメンバーですら喜んでくれるんです。ファンのみんなも待ってくれている。その期待にストレートに答えるというのも大事なことだと思ったんです」

 

 calinとKosukeのペアパートが終わり、曲が一気に転調する。ボーカルが消え、物語がクライマックスに向かうようなパワフルなサウンドに。赤みがかった照明は8人の情熱の炎を灯すようだった。Marid、CHIHIRO、calinによる力強いワックの三重奏で観客を引き込んだ。ラストはSPの3人がピンスポットの中で舞い終演。大きな歓声が場内を包んだ。

 

 ジャッジは「オーディエンス」項目以外の5項目全てを獲得。連敗を3でストップした。永井直也はステージ上で、ファンや対戦相手のLUXに感謝を述べた後、「言葉が出ません」と喜びを噛み締めた。

「何より今回はスペシャル。一夜限りのスペシャルショーのために、Macoto、Kosuke、Maridが一緒に戦ってくれました。これからもダンスをもって愛と感謝を送り続けたいと思います」

 

 2024年内最後のラウンドを白星で締めくくったALT-RHYTHMは続くROUND.6でも勝利を挙げて、1月22日現在、3勝3敗で星を五分としている。「連勝を築いていきたい。これからも研究し、自分たちのスタイルを信じることも大事にしたい。ただお客さんを楽しませることだけに力を入れるのではなく、審査員の方々にも楽しんで評価してもらえるように丁寧に創っていきたいと思います」と永井直也。“アルトリ逆転劇”は上演中といったところか。

 

 チームの“1期生”であり、前リーダーの永井直也は今季から野口量からディレクター職を引き継いだ。

「僕は量さんの下で育ちました。観点や知識はすごく学びが多かった。作品のつくり方は量さんから影響を受けているもの。その上で自分が好きなものを出している。“ディレクターとは本当に大変だな”と感じています。何をしている時もずっとクリエイションしていますし、今季はぐっすり寝られたことがない。寝ていてもクリエイションしているくらい。でもそのくらい好きだから考えちゃう。今はゼロからイチを創り出す楽しさをすごく感じています。みんなを背負う立場ではあるものの、みんなが僕のことを背負ってくれている。支え合って、信じ合えていると思っています」

 

 新生アルトリについて、永井直也と同じ“1期生”のcalinはこう証言する。

「不思議なものでメンバーの雰囲気は全然変わらないんです。今、初期メンバーは4人。あとの10何人は2年目以降に加入しました。それでも1年目からチームの雰囲気は一緒。ディレクターが量さんから直也くんに代わっても変わっていません。私自身の体感的では、量さんからチームを受け継いだのは直也くんだけじゃないと思っています。これまでより自分たちのチームになった。前は量さんがディレクター、(森井)淳さんがアシスタントディレクターで、2人のイメージに合わせて作品を創っていく。もちろん私たちもアイディアを出すんですけど、ついていくような感じではあった。今は真ん中に直也くんがいて、周りにみんながいる。それで作品を創っていると感じています」

 

 ダンスは目的ではなく、人を幸せにする手段のひとつ――。それがALT-RHYTHMで培われてきた永井直也の信念だ。ディレクター、メンバーが代わっても、変わらぬismがある。「もちろん勝つことも大事なんですが、どう勝つかが重要。このメンバーが集まって戦っていることを忘れたくない。勝ちたい気持ちは他のチームも持っていること。“何を食べるかではなく誰と食べるか”と同じで、“何をするかではなく、誰と何をするか”なんです」と永井直也。多様なルーツを持ち、多様なジャンルのダンサーが集う、このチームがひとつになる姿は、言葉以上のメッセージを持つはずだ。

 

 

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(文・写真/杉浦泰介)

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