フライ級女王・辻井和奏、“天下統一”へのリスタート ~SUK WAN KINGTHONG~
26日、ムエタイ興行の『SUK WAN KINGTHONG 2025 THE FIRST』が東京・新宿FACEで行われた。スックワンキントーン女子フライ級王者の辻井和奏(BRING IT ONパラエストラAKK)がミネルヴァスーパーフライ級1位の鈴木咲耶(チーム鈴桜)を判定で破り、初防衛に成功した。
「“試合を観たい”と思われる選手になりたい。負けなしで引退すると決めているので、全勝でいきます!」
辻󠄀井に同じ会場で7カ月前、話を聞いた時、そう目を輝かせていた。しかし昨年11月、『ONE Friday Fights 89』でタンタン(タイ)にプロ初黒星を喫した。この日はその再起戦にして、2023年に獲得したベルト初防衛戦でもあった。
辻󠄀井からすれば“絶対に負けられない”というシチュエーションがいくつも乗った状態での試合である。対戦相手の鈴木はプロキャリア4戦の17歳だが、アマチュアムエタイで90戦積んでいる。またプロ転向後も昨年10月NJKFミネルヴァスーパーフライ級王座決定ワンデートーナメントで準優勝したファイターだ。
「初防衛戦でしたが、私は一度負けているので挑戦者の気持ちでした。硬くなることもなく“勝つ”という思いしかなかった」と辻井。第1ラウンドは蹴りで距離をとりつつ、パンチも当てにいく。168cmの長身で長い脚から繰り出すロー、前蹴りは、レンジが広いジャブやストレートとなり得る彼女のストロングポイントだ。それでも鈴木は距離を詰めてパンチ、キックを放ってくる。パンチが被弾したのか鼻から血が流れた。
第2ラウンド、序盤に相手の打撃を受ける場面もあったが、ロープ際に追い込むなど試合をコントロールしているように映った。最終、第3ラウンドは互いに疲れが見え始め、首相撲が多くなる。それでも辻井は前蹴りを顔面に見舞うなど危なげなかった。ジャッジ3者が29-28で辻井を支持。初防衛に成功した。
再起&防衛戦に勝利した辻󠄀井はリング上では両親への感謝を涙ながらに述べた。
「自分は2週間前、成人式で今まで育ててくれたパパとママに『ありがとうございました』って勝って絶対伝えたいと思っていました。私の夢を追いかけさせてくれてありがとうございます。絶対、天下統一して、スックワンキントーンを有名にしていって実力で世界一になります。これからも応援よろしくお願いします」
両親にとってもサプライズのスピーチだったようだ。父・義和氏は「三姉妹の中で一番手がかかる子ではなかったし、自分を持っている。ああやって言ってくれるとは思ってなかったのでうれしかったです」と笑顔を見せた。
辻󠄀井の2人の妹(和花、愛和)もファイターである。次女・和花はKROSS×OVER GIRLS-KICKアトム級王者、三女・愛和はこの日Queen's Fightの試合があった。2人の存在は姉にとって「2人ともめっちゃ強いんで負けてられない」と刺激になっている。
リング上で「去年11月に夢だったONE Championshipに挑戦してキャリアの中で初めて負けた。今日、いい試合をしてKOしようと思ったんですが、相手の鈴木選手が強くて、しょうもない試合をして申し訳ございません」と頭を下げた辻󠄀井。リングを降りた後に詳しく聞くと、「自分のやりたいことをやらせてもらえなかった。相手の返し、距離感が上手かった」と話した。
昨年11月、ムエタイの聖地ルンピニースタジアムで喫した初黒星。プロ初の敗戦という結果だけを持ち帰ってきたわけではない。
「自分が目指しているところのレベルが改めて高いんだな、と感じました。でもタンタン選手とやれて良かった。巧いし、強かった。ただ試合中、初めて“楽しい”と思いました」
好戦的にいった分、相手の攻撃を被弾する場面も目立った。それも反省材料のひとつだ。
「またONEに挑戦したい気持ちは強いです」と再び“天下統一”の道を歩み出した。
「『辻井和奏は絶対だ』と言われるような選手になりたい」
理想は「一発ももらわず、気が付いたら相手が倒れている」という完璧な試合運び。その到達点までは「技術もスタミナも身体もメンタルも全然足りない」と語る。スックワンキントーンのベルトは守ったが、これからも挑むという気持ちに変わりはないようだ。
(文・写真/杉浦泰介)