当コーナーで何度か紹介した「ゼロポジションスイムウェア」は、4月8日に第1弾が発表された。まず選手のトレーニング用に主眼を置いた浮力の小さい『Z-po05』を先行して発売し、今後は順次、『Z-po10』『Z-po15』と浮力の大きな一般向けの水着を世に送り出していく予定だ。前回に引き続き、山本富造社長に当HP編集長の二宮清純が、「ゼロポジションスイムウェア」のさらなる展開について訊ねた。

二宮: 発売になった“ゼロポジションスイムウェア”の反響はいかがですか?
山本: インカレや国体に出るレベルの選手たちも着用してくれているのですが、おかげさまで好評をいただいています。個人差はありますが、100メートルで4〜8ストロークくらい少なく泳げるそうですよ。

二宮: そんなにストロークが違えば、タイムもかなり違うのでは?
山本: 1ストローク1メートル弱としても、6〜7メートルの差が出てきますから、タイムにすると3秒前後変わります。だから、長い距離を泳いだ時に疲労度が全く違う。たとえば5000メートルのトレーニングをする際に、ゼロポジションスイムウェアを着て2500メートルを泳ぎ、残りの2500メートルを普通の水着で泳いでもスピードが落ちない。泳いだ本人もびっくりしていましたね。

 ボディラインは飛行機の翼!

二宮: 今回の新作水着はテレビCMも放映されていますね。
山本: そのCM撮影をしていて、おもしろいことに気づいたんです。泳いでいるのを横から見ると、普通の水着だとお尻が沈みこむ。ところが、ゼロポジションスイムウェアを着るとお尻が上がるんですね。つまり、ゼロポジションスイムウェアと普通の水着では、泳いでいる時の水の流れが異なるんです。

二宮: どう異なるのか具体的に教えてください。
山本: お尻が上がっていると、頭のほうから流れている水が一端、お尻のラインに沿って上がった後、足の方向へ下って流れていきます。このゼロポジションスイムウェアは親水性のある素材を使っていますから、水が下る時のスピードはより速くなる。となると、水中の水の流れより、水面の水の流れが速くなります。そこで揚力が生まれて体が浮く。この時の体のラインは飛行機の翼の形に似ています。飛行機も翼の上の空気が速く流れる構造になっているから飛べるわけです。

二宮: 揚力が働くため、体が沈みこむことがない。つまり水の抵抗をあまり受けず、前へ進めるということですね。
山本: 着用した人に聞くと「お尻が浮いてるみたいだった」ってコメントが出てくる。しかも、これでずっと泳いでいると、体がその形を覚えますからね。ゼロポジションスイムウェアを着用しなくても、速く泳げるようになるんです。

 初心者には泳ぎ方をレクチャー

二宮: ラクに速く泳げるとなると、アスリートはもちろん、これから水泳を始めようとする人たちにとってもありがたい話です。以前にもお話しましたが、競技者から愛好者まで対象が幅広いのが、ゼロポジションスイムウェアの特徴と言える。
山本: マスターズの人たちがこれを着ると、効果てきめんですよ。年齢を重ねると、浮くことはできても、泳ぐのは体力を使うので一苦労です。筋肉が弱っていると、上からの水圧に体が耐えられず、どうしてもお尻や足が沈みこんでしまいますからね。本人は泳いでいるつもりでも、残念ながら傍からはバシャバシャ溺れているように見える(笑)。これでは長い距離が泳げない上に体に負担がかかってしまいます。それをこのゼロポジションスイムウェアで補ってあげることで、長い距離も楽に泳げるようになるんです。気分的にも300メートルしか泳げないのと、1キロ泳いだのとでは満足感が違いますよ。

二宮: フォームが良くなれば背筋も伸び、姿勢が良くなる効果がありますね。
山本: そうです。体が沈みこむことなく泳げれば、筋肉も伸びていいストレッチになる。陸上より腰やヒザに負荷もかからないし、理想的なトレーニングができます。もし、ある程度、泳ぎが得意な人でも、姿勢がよくなって体がしっかり伸びれば、同じ距離を泳いでも運動効果が上がるはずです。

二宮: 一般向けにはゼロポジションスイムウェアと一緒に、効果的に泳げる方法をアドバイスすることも必要かもしれませんね。
山本: もちろん、そのプログラムも用意しています。びわこ成蹊スポーツ大学の若吉浩二教授の監修の下、2月には6回コースで指導をしてゼロポジションスイムウェアを使って泳いでもらうワークショップを開催しました。それまで、なかなか泳げなかった年配の方が6回コースのレクチャーを受けているうちに「きれいに泳げるようになった」と喜んでいましたよ。

二宮: 自分の命を守るためにも、健康維持のためにも、ひとりでも多くの人が水泳に親しめるようになるといいですね。
山本: 年をとってから球技や激しい運動を始めるのは大変です。でも、水泳なら気軽にできる。泳げるようになれば、またそれも生きがいにつながるはずです。とはいえ、最初から我流では泳げない。やっぱり、最低限、顔は水につけられないと泳げませんから(笑)。今後は若吉先生と作成したプログラムをゼロポジションスイムウェアとセットで本格的に広めていきながら、ひとりでも楽しく長く泳げる人を増やしたいと考えています。

 山本化学工業株式会社