独立リーグでの成績とはいえ、これは光っている。  
 15試合に登板し、0勝0敗7セーブ、防御率は0.00(6月22日現在)。完璧である。
 今季から元ヤクルトのクローザー高津臣吾はBCリーグの新潟アルビレックスBCでプレーしている。

 同チームの監督はヤクルト時代の先輩にあたる橋上秀樹。東北楽天のヘッドコーチ時代は知将・野村克也の懐刀と呼ばれた人物だ。
 開幕前、橋上は高津に次のような期待を口にしていた。
「彼が培ってきた経験は、何物にも代えがたい財産。選手、球団、リーグが彼から学び、得るものは少なくない」
 日本、米国、韓国、台湾。野球が盛んな4カ国・地域のトップリーグでプレーしたのは日本人では高津ひとりである。
 この4カ国・地域で高津は通算347セーブを挙げている。NPB(日本プロ野球組織)記録の286は先頃、中日の岩瀬仁紀に抜かれたが、347という数字は日米で381セーブをあげた佐々木主浩(元横浜)に次ぐ。

 これはあまり知られていないことだが、高津はワールドシリーズ制覇のチャンピオンリングを持っている。
「えっ、なぜ高津が?」といぶかしむ人もいるかもしれない。高津が所属したホワイトソックスは2005年にワールドチャンピオンになった。だが、本人は8月に解雇されている。セカンドとして「世界一」に貢献した井口資仁(現千葉ロッテ)が記念の指輪をテレビで披露しているのを見たことがあるが、実は高津も同じものを持っているのだ。
「一応、7月までに8セーブを挙げていたので、ダイヤで飾った名前入りのリングをもらいました」
 ちなみにチャンピオンリングを持っている日本人選手は伊良部秀輝、井口、田口壮、松坂大輔、岡島秀樹、松井秀喜、そして高津の7人だけ。そんな男が独立リーグでプレーしているのだから、この先、NPBを目指す若者には大きな励みになるだろう。

 しかし、高津の伝家の宝刀シンカーをバットの芯でとらえるのは容易ではない。右バッターには、アウトコースのボールゾーンから外角のベースギリギリを狙うのに対し、左バッターには、ストライクゾーンから外角のボールゾーンに逃げていくボールを投げる。一番、長打のリスクの低いコースに丁寧に投げ分けるのが高津の特徴である。
 この丁寧さこそが、高津がクローザーとして成功した最大の理由だと、ヤクルト時代、長きにわたってバッテリーを組んだ古田敦也は語っていた。

 この11月に43歳になる。体力的に厳しくなっているのは自明だが、高津はNPB復帰をまだ諦めてはいない。
 贔屓目かもしれないが、彼の代名詞とも言えるシンカーが錆びつかない限り、クローザーはともかく、セットアッパーとしてなら、まだ十分、通用するのではないか。NPBの補強期限は7月31日までだ。

<この原稿は2011年7月10日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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