6月4日にカシマサッカースタジアムで開催された震災復興チャリティーイベント「SMILE AGAIN 〜YELL FROM KASHIMA〜」ではたくさんの方にご来場いただき、ありがとうございました。当日は「ANTLERS LEGENDS」の一員として、チャリティーマッチにスタメン出場。エンジンがここからかかるというところで早めの交代となってしまいました。オールドファンには、僕の雄姿を充分に見せられなくて少し残念です。

 チャリティーマッチとはいえ、スコアは3−0。堅守のアントラーズの伝統が脈々と受け継がれていることを実感できた試合でした。特にメンバーとは試合前、練習をしたり、ミーティングをしたわけではありません。しかし、楽しみつつも、自然ときちんとしたサッカーができたことをうれしく思いました。

 ちなみにこの試合、ファーストシュートは僕が打たせてもらいました。とはいえ、こんなそうそうたるメンバーがいる中で、僕が先制ゴールを決めるわけにはいきません。空気を読んで、わざと外しました(ただ、狙って外しただけという話もありますが……)。それはともかくサッカーという共通言語で多くのOBとつながり、いいイベントができて良かったです。

 さて、6月のサッカー界を振り返ると、まずはキリンカップがありました。1日のペルー戦、7日のチェコ戦と、アルベルト・ザッケローニ監督は3−4−3の新システムを試しました。これまでの4バックによる組織的な守備からゲームを組み立てるスタイルに加え、より攻撃に人数を割くオプションにチャレンジしようとしたのです。

 結論からいえば、新システムをモノにするには、もっと個々の力が求められると感じました。なぜなら、攻撃の枚数が増え、スペースをつける半面、縦に早く攻めようとすれば、プレーのジャッジの正確さ、高い精度がなくては、相手の守備陣に捕まってしまうからです。チェコ戦、ペルー戦では、相手が様子を見て戦ってきたため、なかなか縦にボールを送れず、横や後ろへのパスは多くなってしまいました。こういった相手でも縦にボールを入れてこじ開けるには、日頃のリーグ戦からコンパクトに速いサッカーをしなくてはいけないでしょう。その点、海外の強豪にもまれている本田圭佑(CSKAモスクワ)や長友佑都(インテル・ミラノ)は帰国直後でベストコンディションとはいえない状況でも、3−4−3にうまく対応していたように感じました。

 この2試合、守りの最終ラインはセンターバックに今野泰幸(FC東京)、右に栗原勇蔵(横浜FM)、吉田麻也(VVVフェンロ)、左に伊野波雅彦(鹿島)が入りました。両試合とも無失点に抑えた結果が示すように、現状のDF陣に特に問題はありません。
ただ、3−4−3の特性をより生かすのであれば、僕はセンターに岩政大樹(鹿島)、右に今野、左に吉田という布陣を提案します。

 まず左に吉田を入れるのは、左サイドハーフの位置に入る長友との兼ね合いです。長友がサイド攻撃で上がる場面が増えれば、その分、ボランチとともに左サイドバックの選手はスペースをケアする必要が生じます。何よりも求められるのは、広い範囲をカバーできる運動量です。この観点から現在の日本代表を眺めると、もっとも適しているのは吉田でしょう。

 一方、右に今野を入れたのは守備力に加えて、攻撃の起点となるプレーを期待してのものです。長友という強力なコマがある左サイドに比べ、右サイドの内田篤人(シャルケ04)は運動量、守備力ともに見劣りするのは否めません。その点、攻守にバランスのいい今野は、内田の良さを生かし、弱みを消せる選手だと思っています。

 W杯予選の開始まで、代表が集まれる機会はわずか。本田がチェコ戦後に語っていたように、どこまで「個のレベルアップ」ができるか。それが3−4−3のシステムと今後の日本代表の成否を握ることは間違いありません。

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


◎バックナンバーはこちらから