まずは、W杯初戦に勝利した女子代表に拍手を送りたい。彼女たちが展開したのは、「日本人にはできない。ゆえにこうするしかない」というリアクションサッカーではなく、「日本人にはできる。ゆえにこうする」という哲学に基づいた魅力的なサッカーだった。ボールを持っていない選手の動きの質と意識の高さは、ひょっとするとJ1のかなりのチームよりも上かもしれない。
 サッカーの世界では、よくボールを持っておらず、かつパスの受け手でもない選手の動き、いわゆる“第三の動き”の重要性が言われるが、彼女たちのサッカーは、時に第四、第五の動きまでからむ時がある。だからパスが小気味よくつながるし、だから暑さで消耗するとガクンと質が落ちる。結果だけでなく、内容でも世界を魅了するのは大変なことだが、なでしこたちはその可能性を秘めた集団となりつつある。高さという大きなハンデを抱えつつ、彼女たちがどこまで駆け上がるのか。ドイツでの戦いに注目である。

 メキシコでは、17歳以下の日本代表も頑張っている。アルゼンチン、フランスを抑え、なんと1位での決勝トーナメント進出である。
 今回のU-17日本代表に、絶対的な個人は見当たらない。では、チームとしてのまとまり、出来が抜群に良かったのかというと、そうでもない。3−1で勝ったアルゼンチン戦にしても、組み立て段階でのミスが極めて多く、なぜ大勝できたのか説明が難しい試合でもあった。この結果をもって、「日本の育成システムの正しさが証明された」と言い切る自信は、わたしにはない。
 ただ、矛盾するようではあるのだが、チームとして出来が良くなかったのにもかかわらず予選リーグを勝ち抜くができたという結果には、自信を持っていい。自分たちの歴史を鑑みても史上最強で、かつ最高の出来で戦ったとしても世界では勝てないと思い込んでいたのが、かつての日本サッカーだった。
 最強でもなくて、最高でなくても勝つことはできる。ドイツ人やブラジル人であれば当たり前のように感じている境地に、日本サッカーが初めて足を踏み入れつつある。今回の結果は、若年層の指導者に大きな意識改革をもたらすことになるかもしれない。

 10年前、自分が世界一になれると公言する日本人選手は皆無だった。公言することが許されない雰囲気さえあった。いま、日本には世界一の左サイドバックを目指すという男がいて、ついにはバロンドールを口にする若者まで現れた。日本人の意識は、いま、驚くべき速さで変わりつつある。

<この原稿は11年6月30日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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