「金言」は動く。スポーツ界では特に

facebook icon twitter icon

 テニス界では有名な逸話。

 

「日本には国枝がいるだろ」

 

 一人の日本人記者から、日本に世界的なテニス選手がいない理由を問われたテニス界のレジェンド、ロジャー・フェデラーはそう答えたという。最終的にグランドスラム車いす部門で史上最多の50回もの優勝を遂げることになる国枝慎吾を、日本人記者は、“世界的選手”とは考えず、フェデラーは考えていた。

 

 いま、日本人記者が世界的なサッカー選手がいない理由をスウェーデンやドイツ、米国のレジェンドに問いかけてみたら、こんな答えが返ってくるかもしれない。

 

「日本には谷川がいるじゃないか」

 

 スウェーデンでのローゼンゴードでは、ボランチながら得点王に輝いた。長期離脱もありながらのタイトル獲得だった。今年に入って移籍したバイエルンでは、デビュー2戦目となるDFB杯準々決勝で1得点1アシストを記録した。そして、23日に米国で行なわれたシービリーブス杯のコロンビア戦では、開始18秒で驚愕のミドルをたたき込んだ。

 

 三笘は素晴らしい。久保も覚醒しつつある。ただ、そんな彼らでさえ、まだ19歳の谷川萌々子が放つ輝きに比べればくすんで見える。とにかく、すべてにおいて別格。マラドーナが出現した際、「サッカーマガジン」は「ついに彼は現れた」と表現したが、それに倣えば「ついに彼女は現れた」。心配なのはケガ。それだけだ。

 

「サッカーは単純なスポーツだ」というオールドファンには有名な明言を残したのは86年W杯得点王のリネカーだった。

 

「22人が90分間ボールを奪い合い、最後はドイツが勝つ」

 

 ドイツにしても取りこぼしがないわけではない。ただ、ここぞという場面、特にPKで雌雄を決するような状況には、めっぽう強かった。リネカーが嘆いたのも、W杯90年大会準決勝でPK戦の末敗れた直後だった。運否天賦の状況で勝ちを引き続ける集団は、誰からも畏怖される。

 

 本大会出場を決めたU-20日本代表。先制を許しながら、残り時間は終始イランを圧倒した。たとえ本大会出場を逃すことがあったとしても、その強さ、ボール保持力の高さはアジア各国に強烈な印象を刻んだことだろう。

 

 だが、彼らはその上でPK戦を戦い抜いた。押しまくった内容だっただけに、むしろ相手の方が「してやったり」と感じていたはずだが、若い日本の選手たちは歯牙にもかけなかった。

 

「最後は日本が勝つ」――少なくともアジアにおいては、そう感じる人が増えていきそうな、準決勝の結果がどうなろうと揺るぎそうもない、そんな試合だった。

 

「ローマは1日にしてならず」

 

 言わずとしれた世界的な金言だが、Jリーグの序盤2節を見る限り、当てはまる場合とそうでない場合があるようだ。

 

 当てはまっているように思えるのは、FC東京、鹿島あたりか。どちらもボール保持を重視するタイプの監督に変わったが、新しいやり方が浸透しきっていない。当然といえば当然である。

 

 ところが、もう何年も同じ監督のもとでやっているかのように滑らかなサッカーを見せているのが柏。川崎Fを終始圧倒した第2節の戦いは圧巻だった。

 

「最後はドイツが勝つ」といったリネカーは、ユーロ20でイングランドがドイツを倒すと、自らの言葉を撤回した。金言は動く。スポーツ界の世界においては、特に。

 

<この原稿は25年2月27日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>

facebook icon twitter icon
Back to TOP TOP