第173回 未来につながるチャンスの扉
ある中学校からのご依頼で、パラリンピアンと一緒に訪問しました。私はパラリンピアンの「挑戦」をテーマにしたお話の聞き手を務めました。その後はパラスポーツの体験会も行われました。
当日、会場にあるご夫妻が見学に来ていました。この学校に子どもが通っているのではなく、今日のこの行事のことを知り、学校に見学を申し入れたそうなんです。いま小学校6年生の身体・知的の重複障害がある次男の進学先に迷っている、と……。
「1年後、どんな学校に入ることができて、いえ、入れてもらえて……。親はどのようにすればいいのか。障害のない、いま中学生の長男の時は何も考えなかったことなので、次男の時には一つもわからない。でも、じっとしていても何も始まらないし、時間は経っていく。なんでもいいから動いてみようと思い、来ました」
友人のお子さんがこの中学に通っていて、年に何度か、障害のある選手が学校に来て交流をしていると聞き、興味と期待を抱いたそうです。
「実は、家はここから少し遠いところにあります。自宅近所のいくつかの中学校からは、特別支援学校を勧められました」。もちろん特別支援の行き届いた教育には共感しているそうです。
幼いころから兄弟そろって野球が大好きで、長男は中学に進学すると、迷わず野球部に入りました。弟も、と思い問い合わせたところ、その中学校からは「障害のある生徒には運動部は勧められない」との返答が届きました。理由は危険だから、そして付きっきりで指導をできないからです。これまでも障害のある生徒には、文化部に入ってもらっていたようです。そこで範囲を広げて野球部に入れる学校を探し始めました。
昨年、東京都立青鳥特別支援学校ベースボール部の久保田浩司監督にお話を聞きました。
https://www.challengers.tv/seijun/2024/07/7494.html
「知的障がいの子どもが、障がいのないの子どもたちと一緒にできるのが運動です。勉強はクラス分けをしないと難しい部分がありますが、親御さんたちも運動なら大丈夫と考えている人が多い。でも実際には、学校側から運動部に入部することを認められず、チャンスをもらえないという現状があります」と久保田監督はおっしゃいます。
兄を見ている次男は、中学校で野球部に入るのを、それはそれは楽しみにしてきたそうです。
障害のあるアスリートとの交流が盛んな学校だったら、もしかして次男も野球部に入れるかもしれない――そう思い、見学に来たそうです。
ご両親の言葉が印象に残りました。
「とにかくチャンスを、と願います。入口があること、扉が開いていること。それが子どもの未来につながっていると思えてならないんです」
学校でも学校以外でも。入口さえあれば、扉が開いてさえいれば。その先は、その子自身が逞しく切り拓いていくものなのだと確信しました。
<伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>
新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。STANDでは国や地域、年齢、性別、障がい、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。2024年、リーフラス株式会社社外取締役に就任。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。