プロ野球はオールスターが終了し、ペナントレースの後半戦がスタートします。セ・リーグでは東京ヤクルトが首位を独走していますが、2位・中日から5位・広島まではわずか2ゲーム差ですから、これからクライマックス・シリーズ進出をかけて熾烈な戦いとなることでしょう。一方のパ・リーグは福岡ソフトバンクと北海道日本ハムが激しい首位争いを繰り広げています。ソフトバンクがリーグトップのチーム打率2割6分5厘をマークしているのに対し、日本ハムはリーグトップのチーム防御率2.08を誇っています。果たして、ペナントレースを制するのは打のソフトバンクか、投の日本ハムか。後半戦も目が離せそうにありませんね。
 チームの優勝争いのほかに、やはり気になるのが個人のタイトルです。その中のひとつである新人賞は、例年以上にルーキーが活躍しているだけに、非常に楽しみです。昨年のドラフトから話題となっていたのが斎藤佑樹(日本ハム)、大石達也(埼玉西武)、福井優也(広島)の“早大トリオ”、そして最速156キロを誇る澤村拓一(巨人)。4人の内、斎藤、福井、澤村は早くもローテーションに入り、プロの洗礼を浴びながらも奮闘しています。一方、大石は2軍スタートなったものの、フレッシュオールスターではイースタンのクローザーとして最終回に登板し、三者凡退と好投しました。どうやら順調にプロの階段を昇っているようですね。

 さて、ドラフトやキャンプでは彼ら4人に話題が集中しましたが、開幕後、ルーキーらしからぬ活躍ぶりを見せてくれているのが牧田和久(西武)と榎田大樹(阪神)の社会人出身ピッチャーです。牧田はアンダースローで希少価値の高いピッチャーです。最近では渡辺俊介(千葉ロッテ)以来の“サブマリン”としての活躍が期待され、キャンプの時から評論家の間で話題になっていました。私はキャンプでは直に見ることができなかったのですが、他の評論家が口をそろえて、「スピードはないものの、ボールにキレがあって、開幕からローテーションに入るだろう」と非常に高い評価をしていましたので、とても楽しみにしていました。

 実際、見てみると、クイックや間の取り方など、細かい技術が既に身についており、新人のピッチャーとは思えないほどの完成度に驚きました。どんなタイプのピッチャーでも遅いボールを投げるには、非常に勇気がいるのですが、牧田は自信をもってそれができているのです。だからこそ、アンダースローには絶対条件となる緩急がつけられ、スピードがなくても、プロのバッターを抑えることができているわけです。

 ただ、課題もあります。同じアンダースローの渡辺俊の全盛期というのは、上下と左右をどちらもうまく使いながら、なおかつ緩急をつけることができていました。それが安定したピッチングの要因だったのです。牧田は左右はうまく使っているものの、まだ上下の揺さぶりはできていません。これができるようになると、また一つレベルの高いピッチャーになることでしょう。

 6月末から牧田は、それまでの先発から一転、クローザーとして起用され始めました。正直、少々もったいないという感じは否めません。しかし、チーム事情からすれば、いたしかたありません。逆に言えば、クローザーという重要なポジションを任せられたということは、それだけ能力の高さを首脳陣から評価され、認められているということでしょう。

 今はクローザーとしての役割を無難にこなしていますが、今後、例えばクライマックス進出をかけてというような緊迫したゲームで、どういうピッチングをするのか、その引き出しが彼にはあるのか、は気になるところですね。先述したように、縦への揺さぶりができるかどうかが、より重要になってくるのではないかと思います。

 さて、榎田の方ですが、キャンプで彼を見て、「久々に、阪神にドラ1らしいピッチャーが入ってきたな」という感想を抱きました。ブルペンでのピッチングを見ていて、テンポのよさもさることながら、彼がどういうピッチングをすればいいのかをきちんとわかって投げているのが、はっきりと伝わってきたのです。社会人としてやってきただけあって、完成度が高く、即戦力として活躍するだろうなと見ていました。

 その期待通り、榎田はセットアッパーとしての地位を確立し、今や阪神の“勝利の方程式”の1人として、なくてはならない存在となっています。前半戦は31試合に登板し、2勝2敗、防御率2.27。そしてリーグ新人記録となる18ホールドをマークしました。もう、お見事の一言に尽きます。

 ただ、最近は疲れが出てきているようで、フォームのバランスが崩れつつあります。加えて、チームが3位と上位争いをしている分、「大事にいかなければならない「抑えなければいけない」と考えてしまっていることもあるのでしょう。あれだけ振れていた腕が、最近ではコースを狙って、置きにいっている感じになっています。それが失点にもつながっているのです。

 しかし、オールスターの第1戦では、久しぶりに思い切って腕を振って投げている榎田を見ることができました。稲葉篤紀(日本ハム)にはホームランを打たれましたが、川崎宗則、本多雄一、小久保裕紀と、ソフトバンクの強打者たちに対して外野には運ばせませんでした。今のままでも十分に通用するのですし、なんといってもルーキーなのですから、過剰に責任を感じることなく、思い切って腕を振って投げてほしいと思います。そうすれば、後半戦は前半戦以上の活躍をしてくれることでしょう。


佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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