中日やロッテなどで主にクローザーとして活躍し、横浜の監督も務めた牛島和彦から、かつてこんな話を聞いたことがある。彼がロッテ時代の出来事。
「南海戦で打者は門田博光さん。僕のフォークボールを読んだ門田さん、いきなり歩き出し、落ちる前を狙い打った。結果はホームラン。これにはびっくりしました」
 フォークボールの落ち際をとらえるのは至難の業だ。だったら、落ちる前にしばき上げよう――。門田は、そう考えたのである。驚異的なスイングスピードが、劇画のようなシーンを可能にしたのであろう。

 低反発の統一球の導入により、今季はホームランが激減した。前年比で、約4割減だ。
 近年の傾向として、ポイントを後ろに置くバッターが増えていた。多彩な変化球に対応するにはポイントを前に置くよりは後ろに置いた方がボールをとらえやすい。確実性重視の打法だ。
 これだと打率は上がる半面、ホームランは減る。“飛ばないボール”となれば、なおさらだ。

 では、どうすれば統一球を遠くへ飛ばせるのか。
「もう少し長距離砲はポイントを前にしてもいいと思うな」
 過日、東京ドームで会った際、福岡ソフトバンクの王貞治会長は、そう語っていた。
「昔は左打者なら右、右打者なら左に切れるファウルが多かった。それだけ振り切っていたんだよ。変化球全盛の今、どんなボールにも対応しようという気持ちはわかるが、三振を恐れない、思いきったスイングも必要じゃないかな」

 昨季までなら、コスったような打球でも外野フェンスを超えることがしばしばあった。しかし統一球は、そうはならない。
 しかも統一球は縫い目の球種によって変化の幅が大きいときている。門田の例は極端にしても、ポイントを前に置き、曲がったり落ちたりする前にしばき上げるという発想も、この際ありなのではないか。やはりホームランは“野球の華”なのだから……。

<この原稿は2011年8月8日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

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