アジア杯準決勝の韓国戦は、ザッケローニ監督にとって教訓に満ちた試合だった。あの試合で、彼はイタリア人と日本人の基本的なメンタリティーの違いを理解した。時に専守防衛をも美学とするイタリアの常識が、日本では必ずしも常識ではないことを学び、以後、カテナチオの信奉者が見たら卒倒しかねない攻撃的なスタイルに重心を傾けてきた。あの試合は、間違いなくザッケローニ体制にとってのターニング・ポイントだった。
 ウズベキスタン相手の引き分けは、おそらく、チームにとって第二のターニング・ポイントとなる。韓国戦で守備固めに入って失敗したザッケローニ監督は、この日、就任以来2度目の間違いを犯した。選手のコンディションを見誤るという間違いである。

 イタリア代表の選手は、基本的にセリエAでプレーしている。疲労の個人差があるのはもちろんだが、その平均値は予想できる範囲内にある。だが、現在の日本代表選手は、J1、J2、欧州と3つのカテゴリーからなる選手で構成されている。コンディションのブレ幅は相当に大きく、なおかつ、すべての国がほぼ等しくコンディションの問題を抱えている南米と違い、アジアにおける日本は自分たちだけがハンデを背負った状態にある。充実した国内リーグと、海外でプレーする多数の選手を保持するアジアの国は、ほとんどないからである。

 そんな状況で、ザッケローニ監督は中盤のシステムに手を加えた。長谷部に攻撃的な役割を任せるスタイルは、迫力に満ちた北朝鮮戦の後半を考えれば十分に理解できるやり方だったものの、コンディションのいい者、悪い者、ひどい者が混在する選手たちに、新方式にアジャストする余裕はなかった。前半45分間の戦いぶりは、ザッケローニ体制になって最悪の内容だったと言える。

 アジア予選が簡単ではないことを、日本代表の選手たちはよく知っている。そして、この苦戦によって、監督もそのことを知った。ほんの数日前、世界のどこに出しても恥ずかしくないサッカーを展開したチームが、見るも無残な状態に転落してしまうことがある。それがアジアだということを、ザッケローニ監督も知った。そのことが、負けてもおかしくなかったこの試合の最大の収穫である。

 北朝鮮、ウズベキスタン戦を通じて痛感したのは長友という選手の存在である。代役を務めた駒野もよく頑張ってはいるのだが、長友とは違い、武器とはたりえていない。そして、左サイドの攻撃力が減じたことによって、右サイドの歯車まで狂ってしまった。本田の穴は清武でかなりカバーできたが、長友の穴はいかにして埋めるのか。今後の大きな課題である。

<この原稿は11年9月8日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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