まずは、ロンドン行きのチケットを獲得したなでしこたちに拍手を贈ろう。明らかに力の落ちる相手だったタイとの初戦をも含め、自分たちの良さを出せた試合、時間帯はほとんどなかった。特に、韓国、北朝鮮戦などは黒星がついていてもおかしくない内容だったが、終わって見れば周囲が期待した通りの首位通過である。さすがというしかない。
 W杯優勝によって、日本における女子サッカーの立場、環境は大きく変わりつつあるが、どうやら、その影響はアジアの他の国々にも及び始めているらしい。そのことを痛感させられた今予選でもあった。

 日本が世界王者となったことによって、韓国も北朝鮮もオーストラリアも、世界の頂点が必ずしも夢物語でないことを実感したのだろう。彼女たちは、W杯王者の威光に怯えるどころか、嬉々として挑みかかってきた。

 ゴールの見えないマラソンだと思っていたものが、実はそれほど長くはないトラック競技であることを発見したかのように、エネルギッシュに挑戦してきた。近い将来、アジア予選が世界で最もタフな予選だと言われるようになる可能性はかなり大きいのではないか。

 中でも、主力5人が不可思議なドーピングで抜けたはずの北朝鮮の充実ぶりには驚かされた。日本にW杯以降続いた過密日程の疲れがあったとはいえ、現時点で評価をするならば、日本よりもロンドンでのメダルには近いと言えるかもしれない。あの若さ、迫力は欧米のチームにとっても十分な脅威となる。

 北朝鮮がメダル候補として台頭してきたということは、すなわち、日本がメダルを獲得する可能性が幾ばくかにせよ減じたことを意味する。W杯での戦いには、何か見えない力が関与したとしか思えない試合がいくつかあった。そして、そうした力を引き出したのは、被災地の人たちを思う選手たちの気持ちだったはずだが、それが、来年今頃にも持続できているか。いや、持続という名の現状維持ではなく、いまを超える新たな思いを付加できるか。戦術や起用うんぬんよりも、そのあたりのメンタル・コントロールがロンドンでのカギとなるだろう。

 なでしこたちが世界王者となったのはフロックではない。しかし、早くも威光だけでは勝てない状況が出現しつつあることを、今回の予選は教えてくれた。W杯の時のままでは、もう勝てない。

 ロンドンで勝つためには、ドイツであった以上の何かがいる。「勝たなければ」という負荷ではなく、「勝ちたい」と心底思える動機が必要になってくる。佐々木監督は極めて困難な、ただし間違いなく日本サッカーにとって財産となる探求をすることになる。

<この原稿は11年9月15日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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