やり投げ・北口榛花、女王の貫禄で大会連覇 〜セイコーゴールデンGP〜
18日、WA(世界陸上競技連盟)のコンチネンタルツアー「セイコーゴールデングランプリ」(ゴールデンGP)が東京・国立競技場で行われた。女子やり投げは、一昨年の世界選手権&去年のパリオリンピック金メダリストの北口榛花(JAL)が64m16で2連覇した。北口と同じ世界選手権日本大会(9月13日〜)内定組では男子110mハードルの村竹ラシッド(JAL)、同3000m障害の三浦龍司(SUBARU)が優勝。そのほか同100mは栁田大輝(東洋大学4年)が10秒06で連覇した。女子1500mの田中希実(New Balance)、同3000mの山本有真(積水化学)、同100mハードルの田中佑美(富士通)がそれぞれ日本人トップに入った。
やり投げ女王・北口がこの秋、世界陸上東京大会の会場・国立競技場でビッグスローを見せ、詰め掛けた観衆を沸かせた。1投目に61m41でトップに立つと、5投目でシーズンベストとなる64m16をマークした。
「もっと記録を狙えるかなと思って臨んでいたんですが、競技場によってタイミングがずれるので、それを掴むのに時間がかかってしまった。64m飛びましたが、まだ完璧というかたちではない。それでも投げられたことはちょっとホッとしました」
今月3日、今季初戦となったダイヤモンドリーグ上海大会は60m88で4位だった。「好き放題走って投げた」。2週間前は助走のスピードをコントロールしなかったことを踏まえ、この日は「1投目は少しゆったりめに入ることを心掛けました」という。助走スピードを意識しながら、アジャストしていった結果が5投目か。それでも「自分の間を感じられてたので、“きたな”という感じでは投げられたのですが、やりが真っ直ぐ飛ばなかった。やりに全部のエネルギーが乗れば、もうちょっと飛ぶと思っています」と満足はしていない。
期待される中、結果を出し続ける安定感が北口にはある。この日も3投目途中で他の2選手が計測トラブルによりやり直しとなるハプニングも。「(好記録が取り消されたかたちとなった)バハマの選手(リーマ・オタバー)には『嫌いにならないで、また来てね』と言いました」とのエピソードを明かした北口。自身は「世界大会になればいろいろなトラブルは付き物」と動揺せず、好記録に繋げた。この日の夜に出国し、次戦はダイヤモンドリーグラバト大会に出場予定だ。
女子やり投げの北口、男子3000m障害の三浦、男子110mハードルの村竹らが結果を残す中、日本女子の中長距離界のエース、女子1500mの田中希実も存在感を発揮した。
レースの1時間40分ほど前、田中希実は3000mのスタートラインに立っていた。ペースメーカーを務めるためだ。2000mを走り、山本らが出走したレースをつくった。「世界のレベルで考えると、ジョギングの延長戦で走らないといけない。そのペースで世界のトップ選手は1万mを走る。そこを言い訳にするよりは、アップにするぐらいの気持ちで走りたかった」
1500mのレースを田中希実は「想定内と外の部分が入り混じった」と振り返る。彼女の言う想定内とは、ペースメーカーによる1週目の速さ、想定外とは自身が2位集団の先頭を走ったことだ。
「気持ちを割らずに走り切る。どんな展開になっても気持ちを折らないことをテーマにしていました」
海外招待選手は田中希実によれば「タイムは私と同じぐらいか、私より遅かったとしても勝負強い選手が揃っていた。そこの怖さがあった」という。「自分から気持ちで負けることは避けたくて、中学生の頃のように頭を空っぽにしてついていく」
この日のレースは最終的に2番手に浮上すると、ジョージア・グリフィス(オーストラリア)の背中をとらえることはできず2位でフィニッシュ。4分6秒08で東京オリンピック準決勝で記録した自己ベスト(3分59秒19)には及ばなかったものの、納得のいくレース内容だったようだ。
日本人トップに入った女子3000mの山本、同100mハードルの田中佑美は、好調ぶりをアピールした。5000mで2大会連続の世界陸上出場を目指す山本はペースメーカーを務めた田中希実が引っ張るレースに食らいつき、全体3位を守り抜いた。パリオリンピックを含めれば世界大会3年連続出場がかかっている。
今年4月の金栗記念選抜陸上大会の5000mで約2年半ぶりの自己記録を更新(15分12秒97)した。「3000mと自己ベストと日本人トップを取りたいと、金栗から練習を積んできました」。スピードに特化した練習メニューを組んだ。
「田中(希実)さんのペースに余裕を持ってついていけたことが、練習の成果が出たと思う」
フィニッシュタイムは8分50秒64で自己記録を 1秒55更新し、全体3位は日本人トップと目標をクリアした。
「3000mの8分台を当たり前のように出していければ、5000mの14分台も見えてくる。今回のタイムを基準としながら、(今月27日からの)アジア選手権はタイムにとらわれず順位を狙って走りたい」
昨年のセイコーゴールデンGPはエントリーしたものの、調子が上がらず最終的に棄権した。「すごく悔しかった。自分がオフだったので(レース当日は)会場に観に来てたんですけど、悔しくて会場に入れなかった」。山本にとって、世界陸上の会場となる国立競技場でのレースは初だったという。
「レース前に1回会場の中に入った時に“わあ”みたいな。観客が入っていない状態で迫力があった。すごくワクワクしました」
世界陸上の参加標準記録は14分50秒00。このタイムをクリアして7月の日本選手権で3位以内に入れば、日本代表に内定する。「世界陸上を必ず決めて、自分も楽しみたい」と山本。レースに向けて、こう意気込んだ。
「(廣中)凜々香と田中さんに先頭を引っ張ってもらっていた。そこに入っていけるように。きっとあの2人が世界を見据え、すごい走りをしてくると思う。“私も一緒に”という気持ちで、日本選手権までの期間を練習していきたい」
田中佑美は世界陸上ブダベスト大会、パリオリンピックに続く世界大会3連続出場を目指す。
出場9人全員が自己ベスト12秒台というハイレベルなレース。最速はトニー・マーシャル(アメリカ)の12秒36。12秒69の日本記録保持者・福部真子(日本建設工業)も出場した。号砲から徐々に加速していく田中佑美。前をいくマーシャル、アームストロング・アリアというアメリカ勢は捉えられなかったが、日本人トップの全体3位でフィニッシュ。自己ベストを0秒04塗り替える12秒81をマークした。

(写真:12秒54で優勝したマーシャル<右>を追う日本人トップの3位の田中佑美 ©日本陸上競技連盟)
田中佑美はレース後、こう心境を述べた。
「記録というところでは自分が目指している派遣標準(12秒73)に届かなかったことは悔しさはありますが、今まで数試合12秒90台でまとまっていたので、それを破ることができた。一応、自己ベストなので、うれしく思っています」
満点の笑顔とならなかったのは「走っている途中、グーンと加速感があった。そこに柔軟に対応し切れなかった。つぶれたわけではないですが、もうひとつ乗り切れなかったことがレースとして100点じゃない」と振り返った。
田中佑美も山本同様、アジア選手権に出場する。
「アジア選手権は代表として選んでいただいて走る試合になる。しっかりと責任感を持って走りたいと思っています。やはり国内だとずっと同じメンバーで、しかもみなさんすごく速いのでしんどいんですけど、アジア選手権になるとメンバーが変わってくるので、少しフレッシュな気持ちで、自分と向き合いやすい環境で自分のベストを追求できればと思っています」
国内の世界陸上代表争いも熾烈を極めている。この日、自己ベストを塗り替えたのは田中佑美だけではない。4位の中島 ひとみ(長谷川体育施設)、5位の清山ちさと(いちご)も12秒80台に乗せた。7月の日本選手権には寺田明日香(ジャパンクリエイト)や青木益美(七十七銀行)らも絡んでくるだろう。「ここからは“自分のことに集中できるかどうか選手権”を開催し、レースに集中したい」と独特の表現方法で、今後を見据えた。
この日のフィナーレは男子100m。世界陸上2大会連続ファイナリストのサニブラウン・アブデル・ハキーム(東レ)がウォームアップ中に足の違和感を覚え、急遽棄権するというアクシデントがあったが、栁田が1レーンからぶっち切った。9秒76の自己記録を持つクリスチャン・コールマン、9秒93のクリスチャン・ミラーといったアメリカ勢を相手にしながら、大会連覇を成し遂げた。
「ハイレベルな中で、しっかり1番になれて良かったと思います」
予選はギリギリの5番目で通過。「最初のところだけ絶対外さないようにとスタートラインに立ちました」と栁田。今季は4月の日本学生陸上競技個人選手権大会で10秒09。5月の関東学生陸上競技対校選手権大会(関東インカレ)では追い風参考記録(4.5m)ながら9秒95をマークしていた。
「関東インカレが終わって1週間は練習を積めたわけではなく、疲労を抜きながら必要な練習だけをやってきた」
それでも「ひょっとしたら標準(10秒00)切れるんじゃないかという気持ちがあった」と自信があったという。「06は悪くない数字」と手応えを掴んだ。「日本選手権で100点満点することが大事。シーズン初戦イマイチだったら走りが徐々に右肩上がりで結果を出せている。このまま時間を短縮していければと思います」。次戦はアジア選手権。100mは連覇がかかる種目だ。
「決勝に残って、どんなレースでも1番でゴールすことが大事だと思っている。その中で自分の状態をいいところまで持っていきたい」
(文・写真/杉浦泰介、110mハードルの写真/©日本陸上競技連盟)