先週の土曜日、天皇杯でJFLの松本山雅が横浜FCを破ったというニュースは、一般紙でもかなり大きく扱われた。大宮を破った福岡大の大殊勲も、新聞休刊日でなければもう少し大きく取り上げられていたことだろう。番狂わせこそはカップ戦最大の醍醐味であり、番狂わせにはニュースバリューがある。
 だが、原稿の天皇杯のシステムを見ていると、日本サッカー協会は天皇杯がメディアに取り上げられることを嫌がっているのではないか、と皮肉のひとつも言いたくなってしまう。サッカーにおけるホームチームの優位性はあらためて触れるまでもないが、天皇杯の場合、下部カテゴリーから勝ち上がったチームは、ほぼ例外なくJのホームで戦わなければならないからである。

 力の劣る側が、より厳しい状況での戦いが強いられるとなれば、番狂わせの起きる可能性はガクンと落ちる。実際、天皇杯が手本としたイングランドのFA杯、その他欧州各国のカップ戦の勝ち上がり状況と比較しても、天皇杯の“順当ぶり”は明らかである。なぜか。最近の天皇杯は、上位チームにホームで戦う権利が与えられているから、である。

 日程が年々過酷になりつつある欧州の場合、カップ戦でホーム&アウェーを組み込んでいく難しさは日本の比ではあるまい。国によっては日本同様、一発勝負で勝ち上がりを決めていくところもある。だが、そうした国であっても、一発勝負の舞台となるのは、あくまでも下部カテゴリーから勝ち上がってきたチームのホームである。そうすることで、彼らはカップ戦の魅力を維持しようとしている。

 もちろん、Jの側にとって、天皇杯の入場収入がチーム運営をしていくうえで欠かせない、というのであれば仕方がない部分もある。アマチュアが多い下部カテゴリーのチームが、あらかじめスタジアムを抑えておくことの難しさもあるだろう。だが、高知大と戦ったアビスパ福岡のホームには、938人の観客しか入らなかった。FC琉球と戦った愛媛にいたっては、たったの795人である。こんな観客動員では、クラブにとって収入源どころか赤字の垂れ流しでしかなくなってしまう。

 だが、下部カテゴリーから勝ち上がったチームにとって、天皇杯は年に一度の檜舞台である。サポーターも燃える。横浜FCを破った松本山雅は、JFL勢の中で唯一、ホームで戦うことができた。集まった観客は1万1510人だった。天皇杯には、地方のサッカー熱に火をつける力がある。だが、その力が発揮されたのは、いまのところ、松本だけである。エネルギーの有効活用が求められるのは言うまでもない。

<この原稿は11年10月13日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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