連日、タイの大洪水にまつわるニュースが大きく取り上げられている。その際、改めて言われているのがタイと日本の経済的な結びつき、関係性の深さである。どうやら、タイにとっても日本にとっても、互いの存在は不可欠といえるレベルにまで高まっていたらしい。
 そろそろ、同じことがサッカー界にも起きていい。
 U−22日本代表が戦ったマレーシアには魅力的なサイドアタッカーがいた。すでにW杯予選からは姿を消しているベトナムは、勝ち残っているタジキスタンなどよりはるかにタフでテクニカルであることを証明した。どちらのチームにも、いますぐJリーグでやれる選手が確実に複数名いた。
 だが、現在のJリーグに、ベトナム人選手はいない。マレーシア人選手もいない。シンガポール人選手も、インドネシア人選手も、タイ人選手もいない。これは、あまりにも不均衡であるばかりでなく、Jリーグとしても損をしているとは言えまいか。

 日本人はなぜメジャーリーグを見るようになったのか。野茂英雄がドジャースに渡ったのがきっかけではなかったか。カズがセリエAのジェノアに行かなければ、そもそも「セリエA」という単語が市民権を得ることもなかったのではないか。

 野茂が、カズが海を渡ったことによって、日本人は世界との距離感を知ることができた。WBCの優勝も、W杯の常連とたりえたことも、彼らの挑戦と無関係ではなかったとわたしは思う。つまり、彼らの移籍によって、日本人は多くのものを得た。
 だが、受け入れた側も、ボランティアだったわけではない。彼らはビジネスとして日本人選手に目をつけ、そのことできっちりと利益もあげた。得をしたのは、日本人だけではなかったのだ。

 FIFAランキングだけを見れば、現在の東南アジアは世界レベルからかなり遠いところにある。だが、16年前のセリエAが日本人選手に目を向けたことを考えれば、現在の日本人が東南アジアの選手獲得に消極的なのは、あまりにも近視眼的な発想の現れである、といわざるを得ない。

 才能があって、経済が発展してきていて、かつ人口もある東南アジアは、今後、Jリーグにとって大きなエネルギー源となる可能性がある。幸い、日本サッカー協会はそのことを明確に意識しつつある。この流れに、Jの各クラブも続いてほしい。人口2億4000万人のインドネシアが、8500万人のベトナムが、Jリーグに興味を持つようになったらどうなるか、ということなのだ。

<この原稿は11年10月20日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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