【ドネア、NYC初見参でアピールなるか】

 軽量級の新しいスーパースター候補ノニト・ドネア(WBC、WBO世界バンタム級王者)が、今週末、ニューヨークに初登場する。
 10月22日にマディソンスクウェア・ガーデン・シアター(MSG)にて、こちらも2階級制覇王者のオマール・ナルバエスと対戦。メガケーブルTV局「HBO」で生中継される興行のメインだけに、必然的に大きな注目を集めることは間違いない。
(写真:ドネア対西岡が実現すれば日本拳闘史上に残る一戦となる)
 ドネアは今年2月には、長谷川穂積を下したフェルナンド・モンティエルをわずか2ラウンドで痛快にKO。さらにラスベガスでの防衛を果たしたばかりの西岡利晃の対戦候補にも挙がったことで、日本での知名度はかなり上昇した感がある。しかしアメリカではその実力こそ極めて高く評価されているものの(最近はパウンド・フォー・パウンド・ランキングでベスト5以内にランクされることも多い)、全米的な知名度はまだ決して高いとは言えない。

「ボクシングはスポーツであるとともにエンターテイメントでもある。だからお客さんを喜ばせる試合がしたい」
 今回のファイトに先立ち、ドネアはそう意気込みを語っている。実際に“ボクシングの聖地”と呼ばれるMSGでの防衛戦は、母国フィリピンの先輩マニー・パッキャオに続く存在として、その名を広める絶好のチャンスである。

 特にドネアは、この試合がバンタム級では最後のファイトだと明言している。来年早々に予定される転級後には、スーパーバンタム級の西岡やホルヘ・アルセ、フェザー級のユーリオルキス・ガンボア、ファン・マヌエル・ロペスらとのビッグファイトが話題になるはず。西岡対ドネアが実現すれば日本ボクシング史上最大のビッグファイトになるだろうし、ガンボア対ドネアは現代軽量級の頂上決戦として重量級顔負けの話題を集めることだろう。

 それらのドリームファイトの前景気をあおるためにも、ここでその魅力を華やかな形でアピールできるか。実力者のナルバエス相手でも絶対有利と目されているだけに、まずは内容が問われる一戦だと言ってよい。

【パッキャオ対マルケスは激闘必至】

 11月12日には、真打ちマニー・パッキャオがラスベガスで2011年2度目の防衛戦に臨む。対するのはこれまで直接対決で1勝1分けの宿敵ファン・マヌエル・マルケス。満を持して挑んでくるメキシコの英雄とのラバーマッチは、近年は無敵の進撃を続けてきたパッキャオにとっても容易なファイトにはなるまい。
(写真:パッキャオの名参謀、フレディ・ローチトレーナーもマルケスへの警戒心をあらわにする)

 過去2戦より増量したウェルター級での対戦はパッキャオ断然有利との声もある。ただ、もともと骨格的には変わらないだけに、その部分がどれだけ大きく影響するかは微妙なところだろう。中には「マルケスはパッキャオにとって悪夢のマッチアップ」と主張し続けている識者も多く、筆者も「もしパッキャオがフロイド・メイウェザー以外に負けるとすればそれはこの試合」と考えていることは以前のコラムでも書いた通りである(それでもパッキャオやや有利と思ってはいるが)。

 来年に計画されているパッキャオ対メイウェザーというスーパーマッチの実現に向け、このファイトは最後にして最大の難関と言えるかもしれない(もちろんその最終決戦が本当に行なわれる保証はないが)。ただ、ひとつだけ保証できるのは、この試合は間違いなくお互いが噛み合った好ファイトになるだろうということ。すでに手の内を知り合ったもの同士だが、どちらかが奇策を狙ってくることはまず考え難い。過去の1、2戦目同様、スキル、パワー、スピードがすべて網羅された、ボクシングファンには垂涎もののハイレベルな攻防戦が展開されるはずだ。

 9月17日のフロイド・メイウェザー対ビクター・オルティス、10月15日のバーナード・ホプキンス対チャド・ドーソンという2つのビッグマッチは、どちらも反則によって誘発された煮え切らない結末に終わってしまった。PPV興行のメインイベントが2戦続けてファンを消化不良にさせたことで、業界全体が大きなダメージを被ったと言ってよい。そんな後だからこそ、2011年最後のメガファイトであるパッキャオ対マルケス戦にかかる期待はより一層大きい。
(写真:期待の大きかったメイウェザー対オルティスも試合内容でファンを満足させるには至らなかった)

 ボクシングマニアだけでなく、世界中のスポーツファンを震撼させるような好ファイトを業界関係者は待っている。そして過去数年に渡ってボクシング界を支えて続けてきたパッキャオなら、その願いに応えてくれる可能性は低くないのではないか。

【“スーパーシックス”、いよいよ終幕へ】

 1つの階級で最強と思われる6人が参加し、トーナメント戦を行なうという画期的なイベントが開始されてからほぼ2年。スーパーミドル級トーナメント「スーパーシックス」は、12月17日にアトランティックシティで行なわれるアンドレ・ウォード対カール・フロッチ戦でいよいよ終幕を迎える。オリジナルメンバー6人のうち3人が離脱するなどアクシデントもあったが、このイベント自体はまずはファンから好評を得ていると言ってよい。

 その理由は、まず1試合ごとは好ファイトが多かったこと。さらにアンドレ・ウォード(「スーパーシックス」開始以降4戦4勝)というアメリカ待望のニュースター候補を生み出したこと。そして何より、ボクシングの特徴とも言える興行面の難解さ(同じ階級に複数の“王者”が存在し、強者同士の直接対決は頻繁とは言えない)を、「リーグ戦」→「決勝トーナメント」という形を確立し、より分かり易くしたことが評価されているのだろう。
(写真:ウォード(左)がフロッチ(右)をも倒せば、アメリカのリーディングボクサーのひとりとなるかもしれない)

 迎える決勝戦も、イベントを通じて周囲を納得させる強さを発揮してきた2人の対戦となった。アメリカ開催ということもあってウォード断然有利の予想が出そうだが、懐が深く、敵地でも実績を残してきたフロッチは決してイージーな相手ではない。お互いに攻めあぐねたまま、決着は終盤にもつれ込むかもしれない。
 しかし、ボクシングの新たなポテンシャルを示してきたイベントだけに、最後も好ファイトで締めくくって欲しいところ。そして願わくば、分かり易い形で“スーパーシックス”の初代王者が誕生し、華やかに2011年を終焉させてほしいものである。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

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