鹿島アントラーズの選手、スタッフ、そしてサポーターのみなさん、ヤマザキナビスコカップ優勝おめでとうございます。OBの私も多くの人から祝福の言葉をかけていただきました。今回の優勝は、誰かひとりの力で勝ち取ったものではなく、チーム全体の総合力の勝利だと感じます。長年積み上げてきた経験や自信などが浦和を最後に上回ったのではないでしょうか。
 印象的だったのは、後半5分に浦和の山田直輝が退場した場面です。スコア上こそ0−0の互角でしたが、ファウルでしか止められないほど、浦和は鹿島に押されていたのでしょう。そして、鹿島は相手がひとり少なくなったところを見逃さず、主導権をにぎりました。なかなかゴールは奪えずにいましたが、ボールを支配しながら、相手のスキをつくのが鹿島伝統の戦い方です。これを全員が理解し、実践していたので、少なくとも90分間でゴールが生まれるとみていました。

 ところが、後半35分、センターバックの青木剛が原口元気のドリブルを妨害したとの理由で、この試合2枚目の警告を受け退場となってしまいました。いささか厳しいジャッジではあったものの、鹿島は混乱しなかった。これも長年の経験がなせる業でしょう。すぐに右SBの新井場徹をセンターバック、ボランチの柴崎岳を右SBに移し、最終ラインを修正しました。そして、バランスを崩さずに、最後まで主導権をにぎり続けました。これが、延長前半の大迫勇也の決勝点につながったのです。誰がどのポジションに入っても自分の役割を認識し、実行できる。鹿島の総合力の高さが表れた試合でしたね。

 この優勝で、鹿島はJクラブ最多の15冠を達成しました。昨年もリーグ4連覇こそ逃したものの、天皇杯を制し、毎年、タイトルを獲り続けています。これは高く評価できることです。今季もリーグ戦で思うような結果が出せていなかっただけに、ナビスコ杯制覇は、チームにとって大きな自信になると思います。やはり鹿島にはこれからも、Jリーグを引っ張っていくクラブであり続けてほしいですね。

 日本は「高さ」だけに頼るな!

 次に日本代表についてお話しましょう。日本は7日のベトナム戦に3−4−3の布陣で臨みました。1点を奪ったものの、その後は追加点を奪えず、結果は1−0。格下相手の苦戦に、まだ選手間にシステムの理解度のズレがあるように映りました。

 特に、3バックだった前半は、選手たちに迷いが出ていました。自陣の両サイドでベトナムにボールを持たれた時、サイドハーフが最初にチェックしに行くのか、それとも外側のセンターバックが行くのか……。この点がはっきりしていません。そのため守備の出足が遅れ、何度かサイドを崩される場面をつくられてしまいました。

 後半、日本は4−2−3−1にシステムを変えました。サイドバックがファーストアプローチに行くことが明確になり、前半のように守備の出足が遅れる場面は少なくなりました。前後半を比較すると、3バックでは判断やカバーリングなどの連係が4バックの時より不安定です。3−4−3の習得にはまだ時間がかかると感じましたね。

 ただ、3−4−3を試した試合は、6月のペルー戦、チェコ戦を含めて無失点に抑えています。ベトナム戦ではゴールも奪いました。徐々に成果が出てきていることも確かです。W杯を見据えた時、戦術や選手などを試す時間は今しかないと言っても過言ではないですから、結果が悪くなる可能性があるとしても、親善試合などでは積極的にテストを続けていくべきでしょう。

 続くW杯予選のタジキスタン戦は、やはりハーフナー・マイクという武器を手に入れたことが大きかったですね。日本のベースであるパスサッカーに、「高さ」というオプションが加わり、攻撃の選択肢が増えました。ハーフナーはもちろん、チーム全体も自信を得たのではないでしょうか。

 ただ今後、日本はハーフナーの高さをあくまでも選択肢のひとつとして考えるべきでしょう。私も現役時代には、身長190?を誇る“ジャンボ”こと松浦敏夫さんなど、多くの長身FWと対戦してきました。確かに、高さがあることは有利です。しかし、ヘディングで競り合う前に落下点を正確に見極め、相手よりも先にポジションをとれば、やられることは少ないものです。つまり、いくらでも高さに対する対応策はあります。選手たちも理解しているとは思いますが、単に浮き球を放り込むのではなく、グラウンダーのクロスも活用して、高さを効果的に生かす工夫が必要になるでしょう。

 11月にはアウェーでタジキスタン、北朝鮮との2連戦があります。すでに一度対戦しているため、当然、前回よりも相手は研究してくるでしょう。しかも2チームとも負ければ後がありません。日本がホームで戦った時よりも、激しさが増す試合になるでしょう。しかし、日本はあえて特別なことをする必要はありません。これまで通り、縦に速いサッカーとサイドを多用して相手を崩す。そして高さというオプションを加えた戦い方の精度を高めていく。油断することなく、自分たちのサッカーができれば自ずと結果はついてくるはずです。


●大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。
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