第108回 新潟・中山大コーチ「チームを飛躍させた“橋上野球”」

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 新潟アルビレックスBCにとって、今シーズンは大きな成長を遂げることができた1年となりました。後期は終盤に怒涛の6連勝を果たし、逆転優勝。さらに3年連続で1勝も挙げられずにいた群馬ダイヤモンドペガサスとの地区チャンピオンシップでは、レギュラーシーズンの勢いそのままに2連勝し、初めて上信越地区チャンピオンになることができました。リーグチャンピオンシップでは石川ミリオンスターズに負けはしましたが、頂上決戦という舞台に立ったというその経験は、チームや選手にとって大きな財産になったと思います。
 チームが飛躍した最大の理由は、やはり橋上秀樹前監督の指導にありました。初めてのミーティングで橋上前監督から言われたのは「変わること」。BCリーグに入った選手の最終目標はNPBに入って活躍することにあります。そのためには自分がどういう選手にならなければいけないのかを、自分自身が理解していなければいけません。球速だけを追ったり、長打だけを狙ったりというだけでは、NPBでは通用しないことを理解し、自分の武器は何なのか、どういうタイプの選手にならなければいけないのかを考え、そのための正しい努力をする。それが橋上前監督が言われた「変わる」だったのです。

 橋上前監督の言葉を理解し、「変わった」一人が、先月のプロ野球ドラフト会議で育成5位で巨人に指名された雨宮敬(山梨学院大付属高−山梨学院大)です。彼はMAX149キロというスピードに加え、防御率1.79と安定感も抜群の投手です。もともとキレのよかったフォークボールも課題だったコントロールが安定し、勝負どころで三振が取れるようになったことも、成長の証でしょう。しかし、何よりも彼にとって大きかったのはマウンド上での考え方を変えたことでした。これまでの彼は、ともするとすぐに熱くなり、「エイヤッ!」とばかりに、単純に真っ直ぐを投げ、打たれてしまうことも少なくありませんでした。しかし、いくら球速があっても、真っ直ぐ一本では打たれることを認識し、変わらなければいけないと感じたのでしょう。今シーズンの途中からは、緩い変化球をコースにきっちりと投げることを意識するようになり、うまく緩急を使ったピッチングができるようになりました。マウンド上で冷静な自分をつくれるようになったこと。その変化こそが、彼をNPBへと押し上げる要因になったのだと思います。

 もう一つ、橋上前監督がシーズンを通して選手に伝えたのが、緊迫した場面を楽しむことでした。たとえ失敗したとしても、それは自分にはまだそれだけの力しかなかったというだけのこと。逆にそこで課題が見つかれば、次へのステップとなるわけです。ですから、橋上前監督が結果以上に選手に求めたのは、選手自身がそれまで練習を通して準備してきたことが、できたのか、できなかったのか、それを考えることだったのです。勝っても負けても、得るものはある。さらに、それが緊迫した試合であればあるほど、自分自身が成長することができる。だからこそ、そうした試合を楽しみなさい、というわけです。

 こうした橋上前監督の教えがチームに浸透した何よりの証が、逆転優勝につながった後期最後の6連勝です。当時、首位をキープしていた信濃グランセローズは残り3試合を残して優勝マジック2としており、4試合を残していた新潟としてはとにかく一つも負けることができない、まさに緊迫した試合が続いたのです。その時に監督が言っていたのは「こういう試合を戦えること自体、オマエたちが持っている力そのもの。そのことに自信をもって、失敗を恐れずに楽しみなさい。成長できるチャンスだぞ」ということでした。選手たちは精神的に戦いやすかったことでしょう。その結果、それまでの2連勝と合わせて新潟は6連勝。一方の信濃は3連敗し、新潟が土壇場で逆転優勝することができたのです。

 そんな橋上前監督の指導のおかげで、球団としては初めてNPBへ選手を送りこむことができました。前述した雨宮と、新潟県出身の渡辺貴洋(鶴岡東高)です。雨宮は僕としても「今年こそは」という思いがありましたので、名前が呼ばれた時は嬉しさと同時に、ホッとした思いがしました。驚いたのは渡辺です。高卒ルーキーとして1年目だったこともあり、「もう1年頑張れば、いけるだろう」という考えがあったからです。しかし、一度に2人も指名されたのは、投手コーチとしては嬉しい限りです。サウスポーの渡辺は、入団した時から変化球のキレ、特にスライダーのキレは抜群でした。それに入団後に習得したチェンジアップもいい。そして、何といっても10代とは思えないメンタルの強さが彼の武器です。マウンドでは全く物怖じせず、思いっきりよく投げることのできる強心臓の持ち主ですから、NPBでも積極的なピッチングを見せてくれることでしょう。

 さて、今シーズンは僕自身にとってもいろいろと学ぶことの多かった1年でした。橋上前監督から最初に言われたのは「コーチが諦めたら、終わりだよ」と言うこと。無意識に僕たちには負け癖がついていることを指摘されたのです。指導者1年目の昨シーズンの自分を振り返ると、選手の技術力向上やコンディションづくり、ゲームの組み立て……とこコーチとしてやらなければいけないことを手探り状態でやっていました。しかし、大事なのはそれらは全て勝つことを前提としてやっているかどうか、ということ。橋上前監督から言われて気づいたのですが、投手コーチとしての役割を考えるあまり、現役時代にはあった「絶対に負けたくない」という勝利への執念が少し希薄になっていたのです。

 今シーズン、僕はずっと勝ちにこだわる橋上前監督の姿を見てきました。そこで学んだことを、橋上前監督がいない来シーズンこそいかさなければいけないと思っています。新監督はまだ決まっていませんが、新たに専任コーチとなった青木智史さんと一緒に、今シーズン果たせなかったリーグチャンピオン目指して頑張ります。ぜひ、来シーズンも熱い声援をよろしくお願いいたします!


中山大(なかやま・たかし)プロフィール>:新潟アルビレックスBCコーチ
1980年7月13日、新潟県生まれ。新潟江南高校、新潟大学出身。大学時代は1年時から左腕エースとして活躍。卒業後はバイタルネットに入社し、硬式野球部に所属した。リーグ初年度の2007年、新潟アルビレックスBCの球団職員となる。翌年、現役復帰し、同球団の貴重な左腕として活躍。1年目には先発の柱として9勝、リーグ4位の115奪三振をマークし、球団初となる前期優勝に大きく貢献した。09年限りで現役引退し、10年より投手コーチに就任した。
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