山下叶夢(東洋大学レスリング部/香川県高松市出身)第4回「人間的成長と比例して好結果」

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 2019年11月、高松北中学3年の山下叶夢(現・東洋大学3年)は全国中学選抜レスリング選手権大会の女子50kg級を制した。当時、日本レスリング協会に掲載された記事(現在はレスリングサイト『レスリング・スピリッツ』に移行)には<「久しぶりすぎて…」と言ったきり、言葉が続かない>と、優勝直後の様子が描かれている。しかし、4年ぶりに味わった日本一は、彼女の反転攻勢の一歩とはならなかった。

 

『レスリング・スピリッツ』に掲載されている彼女の主な成績は、小学1年生時からの全国大会の成績が刻まれ続けていたが、冒頭で紹介した全国中学選抜選手権1位を最後に、翌20年の記録はない。

 それはなぜか。当時、新型コロナウイルスの感染拡大により、部活動はおろか登校すら許されなかった時期だったからだ。

 

「部活動は禁止だったので、たまに集まって走ったりするくらいしかできませんでした。レスリングの練習というような練習は積めていなかった」

 その間、当然大会は中止・延期が相次いだ。自粛ムードが続く中では、いわゆる“普通の高校生活”というものにシフトすることもできない。

 

 目指すべき大会がなければ練習に対するモチベーション維持も難しかったであろう。自粛ムードが解け始めても、ブランクを埋めるのは容易でなかった。

「ラントレとかのメニューがきつ過ぎて、“きつかった”という記憶しかないですね」

 

 2年時の4月には、ようやく大会に出場することができた。約1年半ぶり。山下はジュニアクイーンズカップ選手権大会でカテッド(15~17歳)の部57kg級で2位に入った。しかし全国総合体育大会(インターハイ)は至学館高校3年の山口夏月(現・至学館大学4年)に初戦(2回戦)テクニカルフォール負け(現・テクニカルスペリオリティー)で完敗。なかなか波に乗れなかった。

 

 それでも高松レスリングクラブ、高松北中学時代から山下を指導する竹下敬(現・香川中部支援学校)は、彼女の成長を感じ取っていたという。
「こちらが頭の中で描いていること、やってほしいと思っていることを、先々読めるようになってきた。それと共にレスリング面も成長してきた印象があります。人に対し、敬意を払うであるとか、目上の人に対しての言葉遣いや挨拶など、社会に出ても通用するような礼儀作法がだんだん身についてきたことによって、レスリングも強くなっていった」

 

後輩からの刺激

 母・和代の目にも娘の成長ぶりは映っていた。

「竹下先生の指導のおかげで、高校3年時には洗濯物を畳んだり、学校に持って行く弁当を作ったりと身の回りのことを自分でやるようになりました」

 

 山下の高松北高時代のハイライトは、3年時のインターハイだろう。本人によれば「まさか優勝できるなんて思っていなかった」という。実は山下の父・忍が1986年の男子48kg級で優勝しており、史上初の父娘インターハイ制覇だった。彼女の刺激となったのは2学年下の後輩の存在だ。高松北高1年の吉田泰造(現・日本体育大学1年)が一足先に“日の丸”を背負い、イタリアで開催されたU17世界選手権大会で8位入賞を果たしたからである。

「私はまだ国際大会に出たことがなかったから、泰造君が8位に入った時、めっちゃ悔しくて泣きました。下が結果を出していると、“自分は何をしているんだろう”と。彼が強いというのはわかっていますが、それでもめっちゃ悔しかった。そこで少し火がついたのかもしれません」

 

 迎えた高知県で開催されたインターハイ。山下は準々決勝では東京・帝京高校1年の内田颯夏(うちだ・そわか=現・日本大学1年)に10-0のテクニカルフォール勝ち。内田は吉田同様に山下の2学年下とはいえ、U17世界選手権で金メダルを獲得していた実力者。続く準決勝では2年時のジュニアクイーンズカップ決勝で敗れた埼玉栄高校2年の太田早矢香(現・東洋大学2年)にも11-1でテクニカルフォール勝ちを収める快進撃を魅せる。

 

 決勝戦は名門・至学館高校の選手を相手に第1ピリオドから優位に立ち、タックルを仕掛けてグラウンドの展開に持ち込むとローリングで7点のリードを奪った。第2ピリオドは相手の反撃に遭い、2度バックを取られた。これで4点を返されたものの、終了間際、逆に山下がバックを取って9-4で逃げ切った。

 

 インターハイ制覇によって得た12月の全日本選手権では女子55kgで3位に入った。翌年の2月にスウェーデンで行われたクリッパン女子国際大会では57kg級にエントリー。初の国際大会出場ながら見事金メダルを勝ち取った。高校卒業後、生まれ育った香川県を離れ、東京都に練習拠点を置く東洋大学に進学する。

 

(最終回につづく)
>>第1回はこちら

>>第2回はこちら

>>第3回はこちら

 

山下叶夢(やました・かのん)プロフィール>

2004年5月11日、香川県高松市出身。レスリングクラブで監督とコーチを務める両親の影響で競技を始める。小学1年生から全国少年少女レスリング選手権大会で5連覇を達成した。高松北中学では全国中学選抜選手権の50kg級で優勝。高松北高校3年時には全国高校総合体育大会57kg級を制した。23年にはクリッパン国際大会の同級で優勝。U20アジア選手権は23年(55kg級)、24年(59kg級)と連覇した。天皇杯全日本選手権で2度(22年=55kg級、23年=57kg級)、明治杯全日本選抜選手権大会が2度(22、24年=いずれも57kg級)身長153cm。趣味はアニメ鑑賞。好きなアーティストは、嵐とちゃんみな。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 

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