団体戦における4番目のフェンサーは“戦術的スペシャルワン”
フェンシング世界選手権を控える(22日開幕・ジョージア)日本代表が2日、都内味の素ナショナルトレーニングセンターで練習を公開した。
団体戦において、カギを握るのがリザーブと呼ばれる選手だ。フェンシングは3名がスタートから出場する。そして、ここぞのタイミングでリザーブが出場するのだ。単なる4番目の選手ではない。
フェンシング団体戦において、首脳陣のタイミングで唯一切れるカードである。こんな貴重なカードが“控え”なわけがあるまい。“戦術的スペシャルワン”と言っても良いくらいだ。
日本代表フルーレの菅原智恵子コーチは、このポジションに求めていることを、述べた。
「交代選手が出場する場面は、ほとんど状況が悪い時。その状況を変えてくれることを、大いに期待して常に送り出しています」
女子フルーレ・菊池小巻(セガサミーホールディングス所属)は、今大会団体戦においてスタートからの出場が有力だが、パリ五輪ではリザーブから出場し、大活躍を演じた。パリ五輪、カナダとの3位決定戦。菊池は10対10で迎えた第4ピリオド、宮脇花綸に代わりピストに立った。積極的に相手の懐に飛び込み4得点(3失点)。14対13と日本がこの試合で初めてリードを奪い、後続にバトンをつないだ。
菊池の2回目の登場は20対17で迎えた第7ピリオド。1回目とはかわって駆け引きの妙を見せた。わざと自陣に後退し、相手をおびき出してから的確に有効面を突いた。このピリオドは9得点(8失点)。チームのリードを4点に広げピストをおりた。
結果的に日本が33対32でカナダを破り、銅メダルを胸に飾った。途中で流れを変えた菊池の役割を大きかったのだ。
公開練習後、菊池にスタートから出る難しさとリザーブから出る難しさなどを聞いた。
――: 国際試合でスタートから出る時とリザーブから出る時の気持ちの面での違いは?
菊池: 今はスタートから出ることが多いですが、それまでは途中から出ることが多かったんです。リザーブが難しいのは、出場するかしないかわからない。出るにしても直前に言われるので、常に準備しておかないといけない難しさがあります。出た時は、“絶対に勝ってチームに貢献する”という強い気持ちも持っている一方で、流れもあるため自分がここで我慢して失点を抑えるのか。点数を取りに行くのか……。そこの判断がスタート結構、違いますかね。スタートは常に安定して点を取ること。チームとして次につなげる難しさがありますね。
――: リザーブ時で流れに乗るためのコツなどはある?
菊池: さきほど、積極的に行くのか、ここは失点を抑えるのか、といいましたが、あんまり“これは団体戦”と意識し過ぎないようにはしています。
――: 結果、パリ五輪では流れを引き寄せた。
菊池: もうパリの時は、1試合目から出るつもりでいました。
――: パリに行く前、ここでの公開練習で「どんな状況でも私を頼りにしてもらっていい」と言っていた。見事、戦術的スペシャルワンの役割を果たした。このポジションの重要性をもっと広めるべき。
菊池: ありがとうございます。それは私も前回のオリンピックを経て思いました。今までやっぱり、リザーブは、目立たなかった。今の選手たちも、リザーブは“ただの4番目じゃない”と思っています。この重圧、プレッシャーの中で、どれだけパフォーマンスを発揮できるかにかかっています。パリ五輪でのカナダとの3位決定戦、自分が良い点数を取って盛り上げようという気持ちで出ました。それだけの自信があったことが、良いパフォーマンスを出せた要因かなと思っています。
22日からジョージアで始まる世界選手権でも、“戦術的スペシャルワン”のフェンサーに注目だ。
(文/大木雄貴)