12月11日、今年もホノルルマラソンが、約1万2000人の日本人を含む約2万3000人を集めて開催された。震災の影響もあり、日本人参加者の減少が心配されたのだが、結果的には昨年比10%に満たないダウンに留まり、この大会の根強い人気を印象付けた。
(写真:比較的コースは広いので思ったより走りやすい)
 1990年代から絶大な人気を誇ってきた大会だが、近年、その取り囲む状況は厳しい。国内ではマラソン人気の影響で、新規の大都市のマラソン大会が次々と誕生している。昨年から来年にかけても神戸、大阪、奈良、京都、そして名古屋のリニューアルなど。制限時間も従来の5時間程度から7時間程度に広げる大会も増えてきた。これにより、ある程度マラソンを走っている人だけでなく初心者、初級者への門戸が大きく開かれた。単に大会数が増えただけでなく「制限時間がない」「お祭り的な雰囲気」として知られていたホノルルと趣旨の近い大会が増えてきたという訳だ。その背景には、マラソン愛好者人口が増えていることもある。だが、ターゲット層が重複する大会の増加することで一大会への参加者数が減少する懸念もない訳ではない。90年代には2万を超えることもあったホノルルの日本人参加者数は、2001年「9.11」以降は2万人未満が続いており、ここ3年は1万5000人にも満たない状況が続いている。そんな中で起きた今年の震災。関係者の間では「9.11」の01年を除いては91年以降、続いていた1万人という数字を下回るのでないかという危機感があったようだが、なんとかそんな事態は回避できた。

 参加者層も変化した。90年代は「まずはホノルル」というような雰囲気で、普段マラソンもしなかったような人達が、人生のチャレンジやなにかの記念というような感覚で参加することが多かった。私が現地で講師をしていても、「5?以上走ったことがありません」なんて堂々と宣言する人が結構いたものだ。しかし近年はどの年齢層の参加者もそれなりに準備をしてきており、スタートから歩いているような参加者はあまり見られなくなった。マラソン大会という「スポーツイベント」として、正しい方向に進んでいるということなのかもしれない。

 参加者が減ったとはいえ、一つのスポーツイベントに参加するために1万2000人の日本人が海外に渡航したのだ。あらためて検証すると、スポーツイベントの規模としては、参加型でも、観戦型でも他に追随を許さない。この時期はエアー、ホテルも割高なので、一人当たりの予算は20万円を超える。これで同行者を加えると2万人近くいるわけだから……素晴らしい経済効果と言えるだろう。

 では、この人気はどこからきているのか。あらためて考えてみると2つの要素があるのではないかと思う。一つはやはり「制限時間がない」という緩さ。今年、7時間半を経過した段階でのフィニッシュ者数は1万6000人程度だった。つまりその後に7000人程度フィニッシュしたことになる。参加者の3割が7時間半以上とは通常のマラソン大会では考えられない。国内では長くて7時間という大会が多いため、成立すらしない。皆が準備するようになったとはいえ、やはり国内大会では受け入れてもらえないような初心者であったり、高齢者や若年層が多いのもホノルルマラソンなのだ。そしてもう一つはハワイという場所の素晴らしさ。気候やロケーションはもちろんだが、人々の雰囲気、土地の持つエネルギーが確実に参加者の気持ちを心地良くしてくれる。これだけはなかなか他の場所では真似することが出来ないところだろう。また、「ハワイに行く言い訳」をマラソンにしている人も少なくないようだ。「ホノルルには行きたいけど〜」という思いを、マラソン参加を理由にして果たしているという訳。これが他の場所ならこうはいかないだろう。
(写真:憧れのフィニッシュ)

 各地の各種スポーツイベントに多く関わっている私も、実はこの大会のファンだ。ここでの雰囲気は、参加型スポーツイベントの目指すところが多分にあると思っている。悔しいが、僕もいまだに毎年勉強させてもらっている次第。「いまさらホノルルマラソン?」と思わず、ぜひ一度は参加してみて欲しい。

 いずれにしても、多くの笑顔と涙の参加者をフィニッシュで迎え39回目の大会が終了した。40回という区切りの年になる来年には、参加者増はもちろん、新たな盛り上がりに期待してみてもいいかなと思っている。

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦している。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための新会社「株式会社アスロニア」の代表取締役に就任。『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)が発売中。
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