日米が注目したダルビッシュ有の落札球団はレンジャーズだった。報道によると入札額は5170万ドル(約40億円)。これは6年前にレッドソックスが松坂大輔を落札した際の約5111万ドル(当時、約60億円)を抜き、史上最高額となる。
 レンジャーズはア・リーグで連覇を果たしながら、ワールドシリーズでは2年連続で涙を飲んだ。この原稿を書いている時点で交渉の進捗状況ははっきりしないが、入団が決まれば悲願の「世界一」に向け最高の補強と言えるだろう。
 ダルビッシュにとって頼もしいのは、レンジャーズに2人の日本人投手が在籍していることだ。上原浩治と建山義紀である。

 上原は昨季途中、オリオールズから移籍し、セットアッパーとしてフル回転した。2球団合わせて自己最多の65試合に登板。2勝3敗22ホールド、防御率2.35の好成績を残した。1イニングあたりに何人の走者を出したかを示すWHIPは0.72とア・リーグでナンバーワン(投球回50イニング以上)だった。
「今シーズン、一番良かったのは、自主トレから練習量を落としたことだと感じています。もう36歳になりましたから、若手と同じメニューをしても潰れてしまう。年相応の調整法を身に付けたことが大きかったのではないでしょうか」

 上原はメジャーリーグ(MLB)で成功する条件として、「自分をしっかり持つこと」をあげる。
「全体練習の時間が短いので、その後、どう練習し、調整するかは個々人に任されている。指示を待つのではなく、自分で考えて動けるタイプでないと、いい結果は残せません。
言葉を覚えるのは二の次ですよ。野球をしに来ているわけですから、まずは成績を残すことを第一に考えなければならない。結果さえ出れば、勝手にチームメイトは寄ってきますし、サポート体制も整ってきますから」

 そんな上原を悩ませているものがMLBの公式球である。
「とにかくメジャーのボールは大きくて滑りますね。もうツルッツルです。品質も天と地ほど日本のボールとは違う。
縫い目も雑で1個1個違う。なんだか適当につくっているような感じです。試合中、ボールをもらって、“さすがにこれは替えてくれ”というものまでありますから」
 単なる慣れの問題なら時間がたてば解決する。しかし、08年オフにFA権を行使して海を渡り、MLBで3シーズンを戦った今でも「コントロールするのに悩んでいる」と言うのだから事は深刻である。上原の場合、ボールが滑らないよう、日焼け止めのクリームを使っているというから涙ぐましい。
 果たしてダルビッシュはMLBの公式球に適応できるのか。不安があるとすれば、その一点だけだ。

 1年目は何かと気を使ったり、慣れないこともあるだろう。2人の日本人投手はダルビッシュにとって心強い存在となるに違いない。

<この原稿は2012年1月22日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

◎バックナンバーはこちらから