すっかり日本のお正月の風物詩になった「駅伝」。元日は全日本実業団対抗駅伝を見て、2、3日に箱根駅伝を見たら正月も終わったなぁと、実感するパターンが続いているというのは僕だけではないだろう。中でも箱根駅伝の注目度は特別で、毎年驚くべき視聴率。2日の往路が27.9%、3日の復路が28.5%と、多チャンネル時代において他局が羨む数字で、もちろんお正月番組の中では断トツのトップである。日本テレビの入念な取材もあり、ついつい引き込まれてしまうという人も多いのではないだろうか。
 もちろん私もその中の一人だが、今年はどうも引っかかることがあった。それはなぜ実業団では倒れこむ選手が少ないのに、箱根では倒れこむ選手が多いのか。以前からちょっと気になっていたのだが、今年は実業団から気にして見ているとやはりその差は明確。うーん、やはり学生には過酷な駅伝なのか……。

 確かに近年の箱根はテレビで注目されることもあり、選手たちへのプレッシャーは半端ではない。各大学も広報戦略の一つとして箱根を重要視しており、お金と力を注いでいるのが普通になっている。それに加え、OB会、同窓会、父兄会……普段は母校のスポーツなどあまり気にしない人まで注目してくれる。さらにスポーツメーカーからも大きなお金が動くようになり〜。当然そんな期待は陸上部駅伝班に大きくのしかかり、監督、選手ともに平常心でいろというのが難しい時代になった。

 そんな大きなプレッシャーを背負っての晴れの舞台。「ついつい頑張りすぎてしまい倒れこむ」というのは理解できる。もし僕が彼だったら……今の自分なら上手にコントロールできると思うが、20歳前後の頃にそんなことができるはずもない。もはや関東の大学の長距離選手は大学スポーツ界の花形。人気も注目もプレッシャーも背負わざるを得ないのである。

 でも、なんとなく腑に落ちない僕は、この世界に精通した人物に話を聞いてみた。彼は選手として箱根を走り、コーチや監督として駅伝の選手たちを近くで見てきた経験を持つ。
「いやー、選手の甘えですよ」と開口一番厳しい言葉。「たった20?でそんなになることなどあまりないです。その程度の選手はあの舞台には出てこれないですから。なのでどんなに頑張っても、倒れこむなんて気持ちの問題。僕がコーチ時代は練習でも選手にそんなことは許しませんでした」とまったく同情の余地はなかった。

 しかし、近年は記録も伸びているしレベルが上がっている。スピード化も一因ではないのか。「昔は各校にジープ車の伴走がついていましたが、20年程前には伴走車は禁止され選手一人で走っていました。水分補給はもちろん、ペース管理も自身で行うのが当たり前だったんです。ところが今は再び伴走車が付き、給水をしてもらい、ペース管理はもちろん、叱咤激励を受けながら走る。これで記録が上がらないわけがありませんよ。なので、それは理由にはなりませんね。第一、学生たちより高いレベルで走る実業団選手は倒れこまないでしょう」

 うーん、実際に現場にいた人だけに説得力がある。
「でも、選手だけを責めるわけにはいかないんです。やはりテレビの影響でしょうかね。テレビ的にはやはりちょっとドラマチックな方が持ち上げられる。ペースを乱して苦しくなったり、倒れこんだりする方が数字を取れるので、どうしてもそれを中心に作りがち。すると選手の中でも“そういうのが美しい”というような刷り込みが入ってしまうんですね」

 なるほど、テレビによって大きく成長し、注目を集めるようになった駅伝だが、それによって選手に多分な影響を及ぼしているようだ。ちょっと極端な言い方だが、ドラマ性を追求する番組を見ている中で「倒れこむ方がカッコいい」という感覚になっているのかもしれない。なにしろ有力校には年間を通して取材が入るという。そんな中で選手に意識するなという方が酷だろう。

「でもね、結局は速い奴は倒れないんです。今年の東洋大学は区間記録の連発でしたが、倒れたやつがいましたか? ちゃんと走れているときは20?程度で倒れるはずがない。結局は走れない選手のポーズなんですよね」とはかなり手厳しいコメントだが、自分にもなんとなく思い当たる節がある。いいレースで倒れこむというのはほとんどなく、ダメなレースほど精神的も身体的にダメージがあるし、自身や周りに対する言い訳にしているようなところもあったのかもしれないと……。

 現役学生選手の中にはこのコメントに反論があるだろう。ぜひそのエネルギーを来年の走りに向けて欲しい。君たちはそんなことでも批判されたり、賞賛されたりする存在なのだから。
 もちろん、僕は来年も駅伝漬けのお正月を送り、君たちを応援しているよ。

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦している。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための新会社「株式会社アスロニア」の代表取締役に就任。『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)が発売中。
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