東日本大震災の影響を受け、秋に京セラドームで開催された昨年の都市対抗野球大会、黒獅子旗を手にしたのはJR東日本だった。その大会期間中に行なわれたドラフト会議では、同社から３名もの選手が指名を受けた。その中の一人、縞田拓弥は守備範囲の広さと強肩を誇る内野手だ。昨季は控え内野手がベンチにわずか１人という試合もあったほど、内野手不足に泣いたオリックス。それだけに堅守の縞田には即戦力として大きな期待が寄せられている。その縞田にプロへの意気込みを訊いた。
―― オリックスに３位指名された時の気持ちは？
縞田： そんなに早く呼ばれるとは思ってもいなかったのでビックリしたのと、素直に嬉しいと思いました。あとは指名されてホッとしたというのが正直なところです。
―― 球団から評価されている点、今後の課題点は？
縞田： 守備に関しては評価してもらっていると思いますので、ミスなく、しっかりとやらなくてはいけないという気持ちです。課題はバッティングと走塁ですね。社会人に入って、だいぶ積極的なバッティングができるようになったのですが、調子が悪いと、どうしてもボールを見てしまって、なかなかバットが出ないんです。走塁に関しては、初球から走れるような技術が必要になってくると思います。例えば、スタートする時、低い姿勢だと、空気抵抗が少なく、そのまま加速していけるのですが、僕はリードした時の体の高さが高くなってしまうんです。下半身をもっと鍛えて、自分のかたちを確立させていきたいと思っています。
―― 社会人に入って、成長したことは？
縞田： とにかくたくさん振り込みましたね。というのも、１年目のシーズン終了後、監督に「今のバッティングでは、とても試合に使えない」と言われたんです。それで「絶対に見返してやろう」と思い、それからは全体練習後に振り込みをやりました。もう、とにかくボールを打つことだけを考えて、がむしゃらに振っていましたね。おかげでスイングスピードが上がりました。
―― その成果は？
縞田： それまでは少し速いピッチャーだと、詰まってしまうことが少なくありませんでした。それが少しずつバットの芯の部分で当たるようになって、内野の間を抜けるような打球を打てるようになりました。
神様に救われた野球人生 中学時代にはシニアで全国大会に出場。東福岡高、日本大、JR東日本と野球のエリートコースを歩んできた縞田だが、実は大学時代、本気で野球を辞めようと思ったことがあった。途切れかけた野球への思いをつなぎとめたものとは……。
―― これまで転機となったのはいつ？
縞田： 大学３年の時です。実は２年の後半からケガも何もしていないのに、全く試合に出させてもらえないようになりました。もう、その時は本当に野球が詰まらなかったですね。しかも、チームは１部から２部に落ちて、練習はますます厳しくなった。「なんでこんなに辛い思いをしているのに、試合に出れないんだよ！」という気持ちでいっぱいでした。
―― 状況が変わったのは？
縞田： ３年春のリーグ戦のある試合で、監督に「今日はスタメンで使うけれども、これがオマエにとって最後の試合だと思っておけ」と言われたんです。僕自身、その試合で野球を辞めようと思っていました。ところが、その試合で４打数４安打と当たりに当たったんです。「野球の神様はまだオレを見捨ててはいなかったんだ」と思いましたね。それで「よし、頑張ろう」と。ところが、次の試合でもスタメンで使ってもらったのですが、死球で骨折してしまいました。今度は練習さえも思うようにできなくなってしまった。自分がいなくても何の支障もなく練習が進んでいく様子を見て、腹立たしく思いましたね。
―― それでも腐らずに続けられたのはなぜ？
縞田： 練習を見ていて、腹立たしさと同時に、「野球がやりたい」という気持ちにもなったんです。それで「このままじゃ、ダメだな」と。今思うと、スタメンで出させてもらった時に打っていなければ、そういう気持ちにもなることなく辞めていたかもしれません。やっぱり、野球の神様は見捨てなかったんだと思います。
―― プロで対戦したいピッチャーは？
縞田： 各球団のエース級のピッチャーとは、みんな対戦したいですね。でも、やっぱり一番はダルビッシュ有投手。コントロール、真っ直ぐの速さ、変化球のキレ……どれもが一級品ですからね。
―― プロでの目標は？
縞田： いずれはベストナインに選ばれたいですね。１年目の目標としては、レギュラー争いに加われるように頑張りたいです。チャンスはあると思うので、それをしっかりとモノにしていきたいと思います。
野球の神様に拾われた野球人生。プロへの扉を開けた縞田には、この先、どんなことが待ち受けているのか。生き馬の目を抜く厳しい世界で、いよいよ生き残りをかけた激しい戦いが始まる。まずは２月から始まる春季キャンプで、首脳陣にアピールしたい。
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縞田拓弥（しまだ・たくや）プロフィール＞
1987年１月22日、福岡県生まれ。小学１年から野球を始め、中学時代は福岡城南シニアで全国大会に出場した。東福岡高を経て日本大へ。１年春からベンチ入りすると、開幕戦でホームランを放った。３年時には日本代表候補に選出された。JR東日本では２年目からレギュラーに定着し、３年連続で都市対抗に出場（補強選手含む）した。50メートル６秒２。守備範囲と強肩を誇る。180センチ、80キロ。右投右打。
（聞き手・斎藤寿子）
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