2リーグ制になって以降、セ・リーグでV3以上を達成した球団は巨人だけである。(65年〜73年V9、55年〜59年V5、51年〜53年と07年〜09年V3)。阪神と横浜は連覇もない。
 そんななか、今季、V3に挑むのが中日である。新監督の高木守道は「大きな目標である3連覇を成し遂げたい」と明言している。

 中日は投高打低のチームだ。前監督の落合博満は「打ち勝つ野球には限界がある」と割り切り、投手を中心にした守りの野球を推進した。
 そのかいあって落合はチームを4度、リーグ優勝に導いたが、いずれの年とも防御率はリーグトップだった。

「投高」のチームを支えているのが、02年に横浜からFA移籍したキャッチャーの谷繁元信である。現役最年長の山本昌は「谷繁がウチにきていなかったら落合監督の下でも4回は優勝できなかったでしょう」と語っていた。
 昨季、谷繁は自身5度目のゴールデングラブ賞に輝いた。40歳10カ月(11月1日時点)での受賞はキャッチャーとしては最年長記録だ。中日と新たに結んだ契約は1年だが、軽快な動きを見ているとあと3年は現役でバリバリやれるのではないか。

 谷繁には大洋に同期入団した同級生がいる。通算2425安打を放ち、今季からは1軍野手コーチを兼任する広島の石井琢朗だ。
「敵味方に分かれて戦うようになって初めてアイツの偉大さが理解できました」
 こう前置きして、石井は続けた。
「アイツほど嫌らしいキャッチャーはいない。内角と決めたら、徹底してそこばかりついてくる。バッターの体が開くまでやめないんです。ひとつのボールを意識付けするためには傷口に塩を塗り込むようなことを平気でやる。昔よりもしつこいんじゃないでしょうか」

 自他ともに認める負けず嫌い。「優勝争いした経験のない者は残念ながらプロ野球選手とは呼べない」。そう広言してはばからない。武者震いするような緊張の中に身を置いてこそプロ野球選手は成長する――。それが谷繁の持論だ。
 いきおい若いピッチャーにも注文が多くなる。昨季、中継ぎ投手では初めてMVPに輝いたセットアッパーの浅尾拓也に対しても、「調子が悪いと手投げになる。まだ本当の意味でのコントロールは身についていない」と手厳しい。
 浅尾と言えば岩瀬仁紀の後のクローザー候補。谷繁流の期待の裏返しだろう。

 チームの体質は急には変わらない。V3のカギを握るのは、やはり投手陣だ。今季から台所を預かるピッチングコーチの権藤博は98年、横浜の監督として38年ぶりのリーグ優勝、日本一を達成している。
 この時のキャッチャーが谷繁だ。権藤は「アイツの感性は素晴らしい」と全幅の信頼を寄せていた。

 さてV3への課題は?
「皆さん、ウチは投手陣がいいと言うけど、皆さんが思うほど良くないはないんですよ」。それでも“オレが何とかする”との自信が言葉の端々から垣間見えた。

<この原稿は2012年2月5日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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