昨シーズンは、BCリーグ初、球団としても悲願の独立リーグチャンピオンを達成することができました。とはいえ、前後期ともに負け越していることからもわかるように、苦しいシーズンだったことは否めません。それでも10月、プレーオフに入ってから、「ここからは短期決戦。レギュラーシーズンとは別ものだ」というふうに、チーム全体で気持ちを切り替え、リーグ連覇、さらには初の独立リーグ制覇を目指すことができたことが最大の勝因となったと思います。
 もちろん前年、独立リーグチャンピオンシップで香川オリーブガイナーズに負けた悔しさも忘れてはいませんでした。香川の試合前の練習を見た際、自分たちとのスイングの強さの違いに圧倒されたことは、今でも鮮明に覚えています。そこで、今回は前もって徳島インディゴソックスの練習を見ることで、各打者への対策を練って試合に臨みました。それが功を奏し、全3試合を2点差以内に抑えることができました。このことが頂点をとれた要因の一つとなったことは確かです。さらに相手もエースをたて、勝ちにきたであろう初戦を快勝できたことが大きく、これで勢いに乗って3連勝することができたのだと思います。

 しかし、前述したようにレギュラーシーズンは地区優勝した前期でさえも負け越しの状態で、非常に苦しいシーズンでした。特に投手陣に故障者が相次いだのは、チームには大きな痛手となりました。チーム成績を見ると、2年目の2008年から3年連続で2点台を誇ってきたチーム防御率は、3.79でリーグ5位。これは負けた試合では相手に大量失点を喫することが少なくなかったことが要因です。さらに194(07年)、131(08年)、155(09年)、162(10年)だった四球数は、232にまで増えてしまいました。全体的に投手陣の投球内容が悪かったことは確かです。先頭打者に四球を与え、次打者に犠打を決められて、また四球……というような悪循環になることもありました。しかし、一方で勝つための戦略の結果でもありました。チーム事情を考えれば、失点を防ぐことが勝つためには最優先。そこで例えば、1死二塁の場面、たとえ四球でもランナーを貯めれば、それだけ守りやすくなりますから、厳しいところを攻め、その結果として四球ということも少なくなかったのです。とはいえ、今シーズン、投手陣のレベルアップは不可欠であることは間違いありません。

 さて、年齢層が高くなってきたこともあり、オフにはこぞって主力選手が退団しました。そのため、今シーズンはメンバーがガラリと変わります。一からのスタートという難しい面もありますが、それ以上に、新しいチームとしてスタートする楽しみを感じています。まず、目指すは打撃力アップですね。監督に就任して2年、やはり得点できないと勝つのは難しいというのが正直なところです。加えて、ファンにとっても打撃は観戦する魅力の一つ。もちろん、投手戦も見応えはあるとは思いますが、やはり球場が盛り上がるのは打って得点を挙げること。そこに、野球の醍醐味があると思いますし、打撃力をアップさせることでチームのレベルアップにもつながることでしょう。キャンプではこれまで以上に打撃力アップを重視したトレーニングをしたいと考えています。

 チームの打撃力アップに欠かせないのが、謝敷正吾(大阪桐蔭高−明治大)です。彼は打率も残せますし、本塁打を打てるパワーも兼ね備えています。1年目の昨シーズンは打率、本塁打、打点の3部門でリーグベスト10に入りました。もともと抜群の野球センスをもっている彼ですが、さらなる成長を遂げるためには、下半身を粘り強く使うこと。上半身の使い方は非常にうまく、バットコントロールに優れています。しかし、下半身に関しては硬く、上半身に頼ってしまいがちなのです。下半身を粘り強く使えるようになれば、さらなる強打者になることでしょう。

 その謝敷の名前をよく口にしているのが、同い年の佐竹由匡(清陵情報高−日本ベースボールセキュリティ専門学校−日本ウェルネススポーツ専門学校)です。佐竹は昨シーズンから体の使い方が非常に良くなってきました。もともとチームでもトップの身体能力をもち、上半身は強かった佐竹ですが、彼もまた下半身に課題がありました。「謝敷に勝ちたかったら、下半身を鍛えろ」と言っていたのですが、今年の年明けに会った時、下半身に柔らかさが出ていました。本人も「これまでと全然違う」と手応えを感じている様子でしたので、今シーズンは楽しみですね。

 また、新加入の選手たちにも期待しています。なかでも元NPBの松山傑(横浜商大高−日本ハム−横浜)は、一軍での登板も経験したピッチャーですから、即戦力としてチームを支えてくれることでしょう。松山は最速150キロを誇り、常時142〜143キロのストレートを投げます。しかし、聞けば、昨年よりも一昨年の方が、球が速かったというのです。体ができてくるにつれて、球が遅くなるということは普通はありません。考えられる原因は一つ。筋量が増えることで、筋肉自体が硬くなり、それがフォームを小さくし、力だけで投げてしまっているのです。体の使い方を改善しさえすれば、常時145キロは出るようになることでしょうから、開幕までにしっかりと取り組んでいきたいと思っています。さらに、金沢学院大学の卒業生、植聡二郎(森岡大附高)と秋山和哉(聖望学園高)が加入します。地元に縁のある彼らが活躍すれば、地域全体が盛り上がること間違いなし。ぜひ、地元ファンの前でハツラツとしたプレーを見せてほしいものです。

 監督3年目の今シーズン、目標はもちろん、リーグ3連覇、そして2年連続での独立リーグチャンピオン達成です。しかし、今シーズンはそれに加えて、もう一つ達成したい目標があります。それは、選手をNPBに送り出すことです。BCリーグからは毎年、NPBプレーヤーが誕生していますが、石川ミリオンスターズからは1年目の内村賢介(東北楽天)以来、一人も出ていません。ですから、今秋のドラフトでは石川の選手の名前が呼ばれて欲しいと思っています。その最たる候補選手は、やはり謝敷でしょう。そのためには課題の守備を克服することが必要です。昨年は肩に不安を抱えながら開幕を迎えましたが、今はその不安も解消されています。今シーズンはファーストだけでなく、セカンドやサードもやらせてみたいと思っていますので、さらなる飛躍を見せて欲しいと思います。


森慎二(もり・しんじ)プロフィール>:石川ミリオンスターズ監督
1974年9月12日、山口県出身、岩国工高卒業後、新日鉄光、新日鉄君津を経て、1997年にドラフト2位で西武に入団。途中、先発からリリーバーに転向し、2000年にはクローザーとして23セーブを挙げる。貴重なセットアッパーとしてチームを支えた02、03年には最優秀中継ぎ投手に輝いた。05年オフ、ポスティングシステムによりタンパベイ・デビルレイズ(現レイズ)に移籍。2年間のメジャー契約を結ぶも、オープン戦初登板で右肩を脱臼。07年、球団から契約を解除されたものの、復帰を目指してリハビリを続けてきた。09年より石川ミリオンスターズのプレーイングコーチに就任。10年からは金森栄治前監督の後を引き継ぎ、2代目監督としてチームの指揮を執っている。
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