NPBでは“球春到来”とばかりに、2月1日から12球団一斉に春季キャンプがスタートしましたね。今シーズンの開幕はセ・パ両リーグともに3月30日です。その約1カ月後の4月21日には、BCリーグが開幕します。現在、選手たちは自主トレーニングの真っ只中。信濃グランセローズの室内練習場には、連日のように選手たちの声や、乾いた打球音が響き渡っています。今年の合同自主トレ、キャンプのそれぞれの解禁日は3月1日、4月1日です。それまでにどれだけ体を仕上げてくるか。それによってシーズンの戦いが変わってきますし、何よりも選手自身のシーズンにかける思いがわかります。つまり、BCリーグもシーズンはもう始まっているのです。
 信濃のコーチとして初めて過ごした昨シーズンですが、守備コーチとしての私の最大の仕事はエラーの数を減らすことにありました。2010シーズンの失策数はリーグワーストの104。この数を50以下にまで減らすことを目標に、基礎であるキャッチボールから始め、レベルアップ向上を図りました。しかし、結果は103のエラーを記録し、またもリーグワースト。「ピッチャーを中心に堅い守りで優勝へ」というチーム戦略を実行することができなかったのです。

 思うように守備を固めることができなかった理由の一つは、2人のベネズエラ人選手に大きな誤算が生じたことでした。当初、私はヘルナンデスにショートを、ペレスにサードを任せるつもりでした。ところが、オープン戦でヘルナンデスがケガを負い、一方のペレスはというと、予想していたよりも守備がいまひとつだったことから、5月半ばからはファーストへと回さざるを得ませんでした。

 そこで、頑張ってくれたのが松本匡礼(松商学園高−松本大)と今村亮太(佐久長聖高−東京経済大)です。オープン戦でケガをしたヘルナンデスの代わりに、開幕直前にショートにコンバートされた松本は、全72試合を守り抜いてくれました。また、一昨年に右肩を手術した今村も5月からようやく投げられるようになったことで、ペレスをファーストにコンバートし、本来は外野手である今村を肩への影響も考え、サードに置いたのです。慣れないポジションですから、エラーはあったものの、それでも今村はよく頑張ってくれたと思います。彼らの頑張りもあり、打撃好調だったチームは後期、残り3ゲームを残してマジック2というところまでいきました。しかし、結局は自分たちで崩れてしまったのです。「守り勝つ野球」の徹底が必要であることを改めて痛感したシーズンでした。

 さて、今シーズンは攻守にわたってチームの柱だった佐野史学が抜けたこともあり、キャプテンに就任した松本を中心に、内外野の守備を強化していくことが、初優勝へのカギを握っています。そのためには、チーム内での激しい競争が不可欠です。まず内野ですが、新潟アルビレックスBCから古市隼人(浦和学院高−千葉熱血MAKING−サウザンリーフ市原)が移籍してきました。彼はどこでも守れるユーティティープレーヤーですから、チーム事情によって動かすことのできる貴重な存在となることでしょう。ここに若手の新村涼賢(長野日大高)や井領翔馬(松商学園高)、竹内大地(東海大相模高)が割って入ってきてくれることを期待しています。

 一方、外野はというと、脇田晃が抜けた穴をどう埋めるかが課題です。現在は、サードに回っていた今村を戻し、ここに移籍組の大平成一(波佐見高−北海道日本ハム)と大谷尚徳(世田谷学園高−立正大−FedEX−群馬ダイヤモンドペガサス)をもってきたメンバー構成を考えています。しかし、今後の補強によっては、サードの経験をもつ大平をサードにもっていくことも考えています。とはいえ、大平自身がどこまでできるかにもよりますので、これもキャンプを通して見極めていきたいと思います。

 今シーズンのブレイクを期待している一人に、練習生の宮澤和希(東海大三高)がいます。彼は昨年、3度目となる右ヒジの手術を行ないましたが、現在は順調に回復しています。宮澤は本来、足が速く、何よりバッティングが巧い。ヒジの具合さえよければ、大型内野手として期待できる選手です。特にインコースの打ち方には惚れ惚れとしてしまいます。左ヒジをうまくたたみ、バットが体にまきついて内側から出てくるのです。そのためにファウルになったり、詰まったりせずに、きちんとレフト方向に鋭い打球を飛ばすことができます。ヒジの調子を見ながらですが、彼が選手登録されれば、サードで使ってみたいなと思っています。そして、彼の台頭もまた、チームのいい刺激になることでしょう。長野県中野市の出身ということもあり、ぜひ、地元のファンを沸かせられる選手になってほしいですね。

 来週末からは私も自主トレの方に顔を出し、選手たちに指導をしていく予定です。基礎からというのは昨シーズンと全く変わりありません。土台がしっかりしていなければ、その上に積み上げることはできませんからね。今シーズンこそ、堅固な守備でチームが初優勝できるよう、私自身もできる限りのことをしていきたいと思っています。2012年も、どうぞよろしくお願いいたします。


猿渡寛茂(さるわたり・ひろしげ)プロフィール>:信濃グランセローズ総合兼守備走塁コーチ
1949年4月28日、福岡県生まれ。三池工業では巨人・原辰徳監督の父親・貢氏の指導を受け、3年時には主将として活躍。三菱重工業長崎造船所を経て、70年に東映フライヤーズ(現・北海道日本ハムファイターズ)に入団した。プロ8年間で通算164試合に出場し、打率2割4分4厘。引退後には日本ハムやヤクルトでコーチとして指導し、2008年からは東京ヤクルト二軍監督を3年間務めた。1年目の08年にはファームを10年ぶりの優勝に導いた。11年より信濃グランセローズのコーチに就任した。
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