「31」という背番号を見ていると、若かりし頃の掛布雅之(元阪神)を思い出す。しかし、掛布がドラフト6位の“雑草”だったのに対し、これから紹介する中日の高橋周平はドラフト1位のエリート。昨年のドラフト会議ではオリックス、東京ヤクルトを加えた3球団が1位指名し、中日が当たりクジを引き当てた。
 ちなみに甲子園出場経験のない高校生野手がドラフト1位で3球団から指名を受けたのは史上初めてのことだ。

 山梨・東海大甲府高時代には71本のホームランを記録している。これは清原和博の64本、松井秀喜の60本を上回る。昨年8月に行われたAAAアジア野球選手権では高校日本代表の3番に座り、打率5割(20打数10安打)1本塁打、13打点と打ちまくってMVPを獲得した。手垢の付いた表現だが、文字どおりの「超高校級スラッガー」である。

 キャンプでの評判も上々だ。沖縄・北谷でのプロ初の実戦となる韓国・LG戦では8回に決勝2ベースを放った。右中間を痛烈に破った打球は、とても高校生のものではなかった。
 中日OBで、キャンプでは臨時コーチを務めた木俣達彦は「僕がこれまで見た高校生ルーキーで一番よかったのは松井秀喜、2番目が清原和博、3番目が彼ですよ」と目を丸くしていた。
「とにかくスイング・スピードが際立って速い。中日にも立浪和義、森野将彦など、これまで超高校級と呼ばれた左バッターが何人か入りましたが、ことバッティングにかけては高橋がナンバーワンでしょうね」

 中心選手の荒木雅博にも話を聞いた。荒木は95年のドラフト1位指名選手である。
「僕が入った時と比べたら、あの子の方が5倍はいいでしょう。モノは間違いなく素晴らしい。あとは、ここからどれだけ努力するかでしょうね」

 ポジションはサード。キャンプでは高木守道監督が付きっきりで守備の指導を行っていた。これも期待の大きさの表れだ。
 再び木俣のルーキー評。「守りはまだ下手クソ。しかし、あのバッティングを見たら、すぐ使いたくなるのでは。もし僕が監督だったら1年目から使いますよ。おそらく高木監督も来年あたりは森野をファーストにコンバートして、高橋をサードに定着させたい考えなのでしょう。それくらいの逸材ですよ」

 アウトコースはレフト、インコースはライトと広角に打ち分けることができる。構えは自然体で、見るからに柔らかそう。飛距離も抜群とくれば、守備には少々、目をつぶっても使わない手はあるまい。

 中日は一昨年、昨年とリーグ連覇を果たしながら、観客動員数は右肩下がりだ。「生え抜きのスターが欲しい」と昨年の今頃、ある球団幹部はこぼしていた。
 今季、球団は“脱落合”を目指している。メディアやファンと一線を画した“オレ流”と訣別したいのだ。その意味で高橋には“新生ドラゴンズ”の救世主としての期待もかかる。

<この原稿は2012年3月4日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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