とにかく投げっぷりがいい。マウンドに立つと5尺7寸程度(172センチ)の体が一回りも二回りも大きく見える。25日の広島とのオープン戦でも、危険球で初回退場となった「大型左腕」川原弘之の後を受けて緊急登板し、涼しい顔で2回を1安打無失点に封じた。福岡ソフトバンクの「小型左腕」嘉弥真新也のことだ。昨年のドラフトで5位指名を受け、社会人野球のJX-ENEOSから入団した。マウンド度胸もいい。スリークォーターとサイドハンドを使い分け、多彩な変化球で打者を手玉に取る。
 このチームには今や「小さな大投手」と呼ばれる偉大なる「小型左腕」の先輩がいる。昨年の中日との日本シリーズ第4戦で無死満塁のピンチを切り抜け、ホークス8年ぶりの日本一の立役者となった森福允彦だ。
 こちらの背丈は171センチ。入団時の体重は60キロ。球場に入ろうとすると「そこの中学生、入っちゃダメ」と関係者から冷やかされた。浅黒い肌にスラリと伸びた細い手足。その姿はまるで戦いの場を求めてフィリピンからやって来た軽量級のボクサーのようだ。
 社会人野球のシダックスの廃部に伴い、07年、大学・社会人ドラフト4巡目で入団した。高校生も含めると実質的には5位あたりの指名だった。

 自他ともに認める“左殺し”。昨季の左打者に対する被打率は、わずか1割5分2厘。60試合に登板し、4勝2敗1セーブ、34ホールド、防御率1.13。この男、恐ろしく仕事ができるが、ニヒルでどこかやさぐれている。私が抱くイメージは、「必殺シリーズ」に出てくる京本政樹、すなわち組紐屋の竜。敵の首を狙って組紐を手繰(たぐ)る細い指が、右打者のヒザ元に沈めるスライダーや、左打者の胸元を脅かすシュートを操るその手付きに重なる。まさしく“必殺仕事人”だ。

 プロ野球界には「大型左腕」に対する幻想が未だにある。化けたらスゴイ……。「未完の大器」というわけだが、困ったことに上の3文字がなかなか取れない。中には「永遠の未完」と呼びたくなるようなサウスポーもいる。翻って「小型左腕」に与えられた時間には限りがある。「宜野座カーブ」に「嘉弥真ボール」。嘉弥真は今、刺客稼業の道具立てに余念がない。晴れてルーキーは“仕事人”の一員に加われるのか。この1カ月が勝負だ。

<この原稿は12年2月29日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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