ヤンキースが2009年以来の王座奪回に向けて準備を進めている。
 オフに黒田博樹、マイケル・ピネダを獲得し、課題だった先発投手陣の補強に成功。ホルヘ・ポサダこそ引退したものの、打線も依然として力強さを保っている。過去2年はワールドシリーズ進出を逃したが、今季のチーム力はペーパー上は近年最高。レンジャーズ、エンジェルス、タイガース、レイズらと並び、アメリカン・リーグの優勝候補の筆頭の1つに挙げられてしかるべきだろう。
 それではヤンキースが開幕後も前評判通りに勝ち進むために、必要なものは何なのか。今回は今季のチームの注目点となりそうな4つのポイントをピックアップして見ていきたい。
(写真:ニューヨークに球音が戻ってくる日も間近に迫っている)
【A・ロッドは復調するのか?】

 野手陣は昨季までのメンバーにほとんど補強が施されないまま2012年シーズンを迎えることになる。
 今が旬のロビンソン・カノー(昨季打率.302、28本塁打、118打点)、カーティス・グランダーソン(同41本塁打、119打点)らは再び好成績を残してくれそう。キャリア最低の打率に終わったマーク・テシェイラ(.248、39本塁打)の復調も期待できる。そして何より、相手投手に多くの球数を投げさせる辛抱強さがチーム全体に浸透している。昨季リーグ2位の得点数を挙げた強力打線が急激に数字を落とすとは考え難い。

 そんな中で懸念材料があるとすれば、4番を打つアレックス・ロドリゲスの体調か。2007年にMVPを獲得して以降、A・ロッドが140試合以上出場したシーズンはゼロ。昨季は膝や手首のケガに悩まされ、成績も自己最低(打率.276、16本塁打、62打点)に終わってしまった。
(写真:怪物A・ロッドの打棒が完全復活する日は来るのか Photo By Kotaro Ohashi)

 10年2億7500万ドルの大型契約の途中だけに、衰えが進んでも放出するのはほぼ不可能。さらに成績が低下した場合には、起用法もより難しくなる。もう36歳を迎えており、ときにDHに入ってうまく身体を休ませる必要もあるのだろう。今季は少なくとも打率.280、30本塁打くらいは残し、フロントを安心させることができるだろうか。

【右のエースは?】

 今オフ、黒田博樹、マイケル・ピネダが加わり、先発ローテーションの層が厚くなったことは間違いない。CC.サバシア、イバン・ノバ、フレディ・ガルシア、フィル・ヒューズと併せ、現時点で先発投手は6人。サバシア、黒田、ノバ、ピネダのローテーション入りは確実として、ヒューズとガルシアのどちらが5番手の座を得るかに注目が集まっている。

 ただ個人的には、サバシアに次ぐ2番手として誰を確立するかの方により大きな興味がある。黒田は昨季、ドジャースでメジャー入り以来最高の成績(13勝16敗、防御率3.07)を挙げたが、強力打線揃いのアメリカン・リーグ東地区で成功できるかは未知数。ピネダは“怪物”と称されるほどのポテンシャルを秘めるものの、昨季の後半戦では防御率5.12と崩れており、確実に計算できるわけではない。ノバも昨季6月10日以降の12連勝は見事だったが、メジャーでの実績は1年だけに過ぎない。
(写真:大黒柱サバシアに次ぐ2番手としてまだ自信を持って推せる存在はいない Photo By Kotaro Ohashi)

 この中からいったい誰が、3年連続19勝以上を挙げてきたサバシアに次ぐ2番手となるか。少なくとも3人のうちの1人は、いわゆる“右のエース”としてビッグゲームを任せられる存在になっていって欲しいところだろう。

【若手の台頭は?】

 ピネダを獲得するトレードで噂の大器ヘスス・モンテロをマリナーズに放出してしまったものの、まだ楽しみなプロスペクトは残っている。
 特に名前を挙げられることが多いのが、右のダリン・ベタンセス、左のマニー・バニュエロスという速球派投手たち。ともに将来性を高く評価され、もう1,2年も前から地元ニューヨークでは知る人ぞ知るデュオとなってきた。

 ベタンセスは23歳、バニュエロスはまだ20歳に過ぎず、昨季のマイナーでの成績はどちらも決して圧倒的なものではなかった。ヤンキースはすでに先発、ブルペンともに駒が揃っていることもあり、2人の金の卵にはもう1年じっくりと3Aで経験を積ませる方向だという。

 ただ貴重な速球派左腕であるバニュエロスは、今季の内容が良ければシーズン後半にメジャーブルペン入りする可能性も指摘される。それだけに、マイナーでの登板でどれほどの伸び幅をみせてくれるかが楽しみだ。
 さらに“ジーターの後継ぎ”と期待されるエドゥアルド・ヌネス、近未来の正捕手候補と目されるオースティン・ローマインらの成長度も興味深い。

【ブルペンの起用法は?】

 春季キャンプ開始直後、抑えの切り札として君臨してきたマリアーノ・リベラが今季終了後に引退を示唆するような発言を残して話題になった。本当に今季限りだとすれば、来季以降のヤンキースには暗雲が漂う。ただ少なくとも今季に関しては、現時点で近年最高クラスと思える人材が揃っている。
(写真:不世出のクローザー、マリアーノ・リベラのカットファーストボールを拝めるのも今季が最後か Photo By Kotaro Ohashi)

 リベラに繋ぐセットアッパー役として、昨季ブレイクしたデビッド・ロバートソン、一昨年にレイズで45セーブを挙げたラファエル・ソリアーノが控える。ロングリリーフ役は先発5番手争いをするヒューズ、ガルシアのどちらかが務めることになる。さらにトミー・ジョン手術からのリハビリを続けるジョバ・チェンバレンも、今季途中には復帰してくることになりそうである。

 弱点を探すとすれば、実績ある左腕がブーン・ローガンくらいしかいないこと。ただワンポイント系のサウスポーはもともと計算が立ちづらいものだし、シーズン中に補強の余地もあるはず。先発と抑え&セットアッパーの力を考えれば、左腕不足も大きな痛手にはならないのではないか。

 あとはジョー・ジラルディ監督が、ずらりと揃った本格派リリーバーたちをどんな順番で使いこなしていくか。そして“リベラの後継者”とみなされることが多くなったロバートソンが、昨季と同程度の支配力を発揮できるかもチームの浮沈を左右しそうだ。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

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