7年後の2019年、日本で初めてラグビーW杯が開催される。この4月から日本代表は、ヘッドコーチに名将エディー・ジョーンズを迎え、3年後のイングランドW杯、そして19年へ向けた代表強化に着手する。
 そんな代表の桜のジャージを、将来身にまとうであろう若者がいる。柳川大樹、22歳。ラグビートップリーグに所属するリコーブラックラムズに11年から加入したルーキーだ。大阪体育大時代にU-20日本代表候補に選ばれたことはあるものの、全国的な知名度は決して高くない。そんな“無名のルーキー”が、シーズンが開幕する1週間前、開幕スタメンでの起用を伝えられたのだ。
 それは予想外の抜擢だった。11年からブラックラムズに加入したルーキー4人のなかで、唯一のメンバー入り。トップリーグでベスト4を目指すチームにおいて、並み居る先輩を押しのけての開幕スタメンだった。
「絶対に使われないと思っていたので、ビックリしました」
 本人も驚きを隠せなかった。なぜ抜擢されたか「自分も聞きたいくらい(笑)」という心境だった。春のオープン戦、8月の網走合宿の練習試合でもコンスタントにメンバー入りしていたとはいえ、公式戦、それもシーズンを占う初戦に起用されることが信じられなかった。

 抜擢の理由は“ふてぶてしさ”

 ブラックラムズ監督の山品博嗣が、柳川を開幕スタメンに起用した理由は何だったのか。指揮官を直撃すると、返ってきた答えは実に明快だった。
「単純に、アスリート、またラグビー選手として、試合に出られるレベルにあったからです」

 柳川のポジションはスクラムやラインアウトのカギを握るロック(LO)。状況によってはサイド突破を狙うフランカー(FL)を務めることもある。身長190センチ、体重100キロと数字だけを見れば、大型の印象を受けるが、実際はフォワード(FW)にしては線が細い。それでも、彼にはそれを補う大きな武器がある。190センチの上背にそぐわないアジリティ(俊敏性)の高さだ。

「柳川はバックス並の速さを備えています。ギャップ(相手のDFラインが崩れたところ)に入って行くスピードに長けていて、空中戦にも強いですね」
 山品はそう評する。柳川本人によれば、学生時代の50メートル走のタイムは6秒前半だったという。このスピードがブラックラムズに加入し、トップリーグで最も通用する武器となった。

 スタメン通告の瞬間にあった戸惑いは、開幕までの1週間で、柳川の中から消えていた。
「不安よりも、“やるしかない”という気持ちになりましたね」
 迎えた11年10月29日、福岡サニックスブルースとのトップリーグ開幕戦。ブラックラムズの黒衣のジャージを纏い、秩父宮ラグビー場のピッチに立った。並のルーキーならプレッシャーからガチガチになることも考えられた。しかし、山品が「物怖じしない、ふてぶてしい性格」と語ったとおり、柳川は思いきったプレーを見せる。

 FLとして出場すると、指揮官からの「ふてぶてしくプレーしなさい」との指示どおり、積極的にボールに絡む。すると、後半31分、相手陣内左サイドでの崩しからボールを受けると、左中間を前進。ボールはスクラムハーフ(SH)、スタンドオフ(SO)とつながり、ブラックラムズに勝利を決定づけるトライをもたらした。柳川はこの試合、フル出場を果たした。
「堂々とプレーしていましたし、得点にも絡んでいました。持ってるなと思いましたね」
 山品はルーキーのデビュー戦での動きを高く評価した。
 
 しかし、周囲には物怖じしないように見えても、本人は「とにかく必死でした」と振り返る。後日、開幕戦の映像を見た時は、真っ先に反省点が目についた。
「よくもまあ、こんなに相手にタックルを外されるなと(苦笑)」
 そこには“デビュー戦だったから”という考えは一切なかった。デビュー戦で感じたのはトップリーグでやっていける自信か、それともレベルの高さによる不安か。答えはそのどちらでもなかった。
「やっていくしかない」
 柳川は腹をくくった。無我夢中で駆け抜けたシーズンは結局、全13試合中、11試合に出場を果たした。

 開幕前までは“無名のルーキー”だった。しかし、デビュー戦の活躍でその評価は“無名の大物ルーキー”へと変わった。このリーグで何年もプレーしてきたかのようなふてぶてしさは、いったいどこから来ているのか。その原点は高校時代にあった。

(第2回へつづく)

柳川大樹(やながわ・だいき)プロフィール>
1989年2月19日、徳島県生まれ。徳島県立城東高―大阪体育大学。城東高では3年時に全国高校ラグビー選手権に出場し、徳島県勢では36年ぶりに初戦を突破。大体大では1年からベンチ入りを果たし、U-20日本代表候補に選ばれる。11年、リコーブラックラムズ入り。リーグ戦13試合中11試合、1トライを獲得。同年、7人制日本代表に選出され、11年ボルネオセブンズは全6試合にフル出場して優勝に貢献した。オーストラリアで行われたセブンズワールドシリーズにも参戦し、世界レベルを経験。3年後のイングランドW杯、7人制ラグビーが正式種目となるリオデジャネイロ五輪出場を目指している。ポジションはロック、ウイング並のスピードを誇り、空中戦にも強い。身長190センチ、体重100キロ。



(鈴木友多)
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