白熱のJ終盤戦 監督が選手をどう突き動かすか

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 終盤にさしかかったJリーグがいよいよ大変なことになってきている。

 

 各チームが残り10試合を切り、陸上競技でいったら第4コーナーにさしかかろうとする段階だというのに、首位の京都から4位の神戸まではわずか勝ち点差「1」。8位の浦和にしても勝ち点差は「8」で、まだまだ可能性は十分に残されている。このままでいくと、42.19“4”キロを走っても勝負の行方が見えなかった世界陸上男子マラソンのような、前代未聞にして恐ろしく劇的な決着もありうる。

 

 シーズンもこの時期になると、万全な状態でスタメンが組めるチームは例外的で、どこの監督も、少なからず頭痛のタネは抱えていることだろう。誰を、どこで、どう使うか。次の対戦相手に最適なシステムは? 頭の中は目の前の試合でいっぱいになっていることだろうと推察する。

 

 だからこそ、必要なのは大局観ではないか、と思ったりもする。というか、そう思わされるきっかけが、プロ野球にあった。

 

 ご存じの通り、今年のセ・リーグは阪神が優勝した。ブッちぎりの優勝だった。ブッちぎりすぎて、このあと予定されているクライマックスシリーズ(CS)の是非までが問われるようになる優勝だった。これだけの大差がついたのに、2位や3位のチームが日本シリーズに行くようなことがあっていいのか。わたし自身、そうした思いは少なからずあった。

 

 だが、藤川監督がCSを全面的に肯定する発言をしたことで、すべてはひっくり返った。彼が「楽しみにしている」とまで公言したことで、わたしの中にあったCSに対する後ろ向きな思いというか、何か損をしたような気分は、きれいさっぱり消え去った。もし多くのファンが、そして選手たちが同じように感じていたとすれば、そして阪神が無事CSを勝ち抜いたとすれば、わたしは、藤川監督の言葉を最大の勝因として挙げたいと思う。

 

 というわけで、優勝争いの渦中に身を置く監督たちの、自分なりの“言葉の力”に期待したい。

 

 システムは大事。戦術も大事。だが、最近の日本は、あまりにも2次元のゲーム的というか、ゲームで数値化できるような部分にばかり目が向いてしまっている印象がある。シーズン序盤戦と、優勝や降格の懸かった終盤戦とでは、同じ選手、同じシステムで戦ったとしても、同じ力、機能を発揮できるはずがない。これからの戦いで求められるのは、人間を、集団を突き動かす衝動である。

 

 なぜなでしこジャパンは世界一になれたのか。選手の技術が、チームとしての戦術が素晴らしかったのは間違いない。ただ、選手たちが直前に起きたあの大震災を意識においていなかったとしたら、幾度かあった絶体絶命の場面は乗り切れなかったことだろう。

 

 ここまできて、勝ちたくない監督や選手などいるはずがない。一方で、勝ちたい監督や選手がすべて勝てるわけでもない。ただ、勝った選手、監督には、勝っただけの理由が存在する。今後の残り試合は、各チームの監督が、いかにしてその理由をつくり出すか、あるいは気づかせるかの戦いにもなる。

 

 個人的には、先週末の広島戦で劇的な同点弾を決めた京都が、一歩前に出たとみる。サッカーの質でいけばお気に入りは柏。安定感のある鹿島、3連覇を狙う神戸も捨てがたいし、川崎Fの末脚も気になる。いずれにせよ、こんな終盤戦が見られるリーグは、世界広しといえどもちょっとない。

 

<この原稿は25年9月18日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>

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