いよいよプロ野球開幕まで1週間となりました。北海道日本ハム・斎藤佑樹、千葉ロッテ・成瀬善久、中日・吉見一起、巨人・内海哲也、横浜DeNA・高崎健太郎と、開幕投手の顔ぶれも徐々に明らかになってきています。ダルビッシュ有(レンジャーズ)や青木宣親(ブルワーズ)、和田毅(オリオールズ)などの活躍が期待されるメジャーリーグも気になるところですが、セ・パともに混戦が予想される日本のプロ野球からも目が離せそうにありません。
 昨シーズンのパ・リーグは大方の予想通り、圧倒的な力を見せた福岡ソフトバンクが、2位・北海道日本ハムと17.5ゲーム差をつけてリーグ優勝。中日との日本シリーズも制し、8年ぶりに日本一を達成しました。しかし、和田と川崎宗則が海を渡り、杉内俊哉とホールトンは巨人へと移籍し、戦力ダウンが懸念されています。特に、88勝のうち実に43勝分を挙げた和田、杉内、ホールトンが抜けた先発陣の穴をどう埋めるかが注目されています。そのため、今シーズンのパ・リーグはどこか1球団が独走するのではなく、ダンゴ状態になるのではないかという予想が大半を占めています。

 さて、その中で私が優勝候補の筆頭に挙げたいのが、埼玉西武です。特に先発陣の活躍が期待されます。その一人が、涌井秀章です。昨シーズンもエースとしてチームを牽引した涌井ですが、プロ2年目から5年連続で続いていた2ケタ勝利が、昨シーズンは9勝にとどまりました。当然、その悔しい思いを晴らしたいという気持ちは強いはずですから、力強いピッチングを見せてくれることでしょう。テレビでのインタビューを見ても、今シーズンにかける並々ならぬ決意を語っていますから、非常に期待できます。

 また、若手投手の台頭もチーム力アップの要因となっています。特にルーキーの十亀剣はいいですね。勢いを感じます。18日の阪神戦では6失点とプロの洗礼を浴びましたが、それも積極的に勝負にいっているからこその結果です。シーズンに入っても、ぜひ強気なピッチングを貫いてほしいですね。昨シーズン、クローザーとして22セーブを挙げ、新人王に輝いた牧田和久は、今シーズンは先発としての起用が予定されています。昨シーズン、クローザーとして数々の修羅場をくぐってきたわけですから、そこで培った自信が、先発としても大いにいかされることでしょう。また、3年目の菊池雄星がローテーションに入れば、ますます層が厚くなります。しかし、残念ながらファームで開幕を迎えることが決定的となってしまいました。期待していただけに、非常に残念です。プロ入り後の菊池は、かたちこだわりすぎているようなところが見受けられます。3年目ですから、そろそろ結果を残さなければいけません。シンプルに、それこそど真ん中で勝負する、というくらい、いい意味でのひらきなおりが必要でしょう。ぜひ、這い上がってきてほしいですね。

 オリックス、李大浩の加入で戦力アップ

 今シーズンはオリックスにも注目しています。何といっても、韓国プロ野球で2度も三冠王(2006、10年)になり、昨シーズンも首位打者を獲得した李大浩の加入が大きい。彼は下半身の使い方が非常に柔らかく、変化球への対応力が高いバッターです。長打力もありますが、パワーヒッターによくある三振の数は、そう多くはありません。それが3度もの首位打者獲得の要因でしょう。昨シーズンのパ・リーグ最多安打をマークした、坂口智隆も健在ですから、この2人が機能すれば、打線につながりが出てくることは間違いありません。

 その一方で、ケガで離脱したエース金子千尋を欠いて開幕を迎える先発陣に不安を抱えていると言われています。しかし、私はそれ以上にキャッチャーのリードが気になっています。まだ実績のない若手投手には、いいところを引き出し、自信をつけさせるようなキャッチャーのリードが必要なのですが、オープン戦を見ている限りでは、そういうリードがあまり見られなかったのです。例えば、ストレートのスピードが130キロ台しかないピッチャーに対して、ストレートのサインはほとんど出さず、変化球で“かわす”というよりも“逃げる”ようなリードが多く見受けられました。当然、変化球ばかりでは勝負することはできません。ストレートがあっての変化球であり、緩急を使えば、130キロ台でも十分に勝負することができます。そのことを若手に知ってもらうためにも、キャッチャーには“自信をもってストレートを投げてこい!”というリードをしてもらいたいですね。

 リリーフ陣は昨シーズン、最優秀中継ぎを獲得した平野佳寿、リーグ2位の33セーブを挙げた岸田護に、西武からFA移籍したミンチェが加わった勝利の新方程式「MHK」が完成されつつあります。さらに強固なリリーフ陣にするには、右腕揃いの「MHK」の前や間に、安定した左ピッチャーの存在が必要でしょう。古川秀一、伊原正樹、吉野誠といったあたりが機能してくると大きいですね。

 さて昨シーズン、圧倒的な強さを誇ったソフトバンクですが、やはり3投手の抜けた穴は小さくはありません。その穴を誰が埋めるかということが、今シーズンのカギとなると思いますが、期待されるのが昨シーズンは開幕からローテーション入りを果たし、7勝を挙げた山田大樹です。彼はストレートの球速は130キロ台半ばと、決してスピードがあるわけではありません。それでもストレートで勝負ができるのはチェンジアップをはじめとした変化球が安定しているからです。今シーズンはローテーションのポジションが昨シーズンの5、6番手から3、4番手くらいに上がるはずです。これまで以上の責任が伴うわけですが、そこでの成長が期待されます。また、新垣渚もローテーションの中心を担ってほしいですね。ポテンシャルの高さは、既に証明済み。本来の力を出せば、2ケタは勝てるピッチャーです。あとは自信をもって投げられるかどうか。メンタル面での弱さを克服できれば、大きな戦力となることは間違いありません。

 巨人の対抗馬は阪神と広島

 一方、セ・リーグは、戦力的に考えれば、巨人が優勝候補の筆頭であることは間違いありません。ですから今シーズンのセ・リーグは、いかに巨人をたたいて、優勝戦線に生き残るかということがポイントになることでしょう。その第一候補として押したいのは、阪神です。今シーズンの阪神は、ほとんどメンバーが変わらず、補強もありませんから、戦力的には昨シーズンと同じです。しかし、使えるコマが増えています。特に、昨シーズンは機能しなかった城島健司と金本知憲の存在は大きいですね。加えて、それぞれのポジションに厚みが出ており、バリエーションも増えています。一塁手としては城島とブラゼルの併用が考えられますし、外野は柴田講平や大和といった若手が伸びてきています。主力の故障者さえなければ、十分に上位進出の可能性は高いでしょう。

 阪神に続いてAクラス入りが濃厚なのが、広島です。ここは、とにかく投手陣がピカイチですね。先発ローテーションは前田健太、福井優也、バリントンに加えて、ルーキー野村祐輔、そして完全復活の兆しを見せている大竹寛と充実しています。リリーフには205センチの長身から150キロ超の剛速球を投げ下ろす新加入のミコライオ、そして昨シーズンは終盤、故障で離脱しながらリーグ3位の33セーブを挙げた守護神・サファテという布陣は、非常に脅威です。

 懸念材料といえば、やはり打線でしょう。確かに他のチームと比べても、弱さは否定できません。オープン戦を見ていても、先頭打者が出塁してチャンスはつくるものの、結局はそれを得点に結びつけることができていません。チャンスメーカーはいるのですが、ポイントゲッターがいない状態なのです。そこで、カギを握るのがクリーンアップとなるわけですが、なかでも主砲・栗原健太には期待を寄せています。栗原は昨シーズン、前半戦で2本のホームランしか打つことができませんでした。これは昨シーズンから導入された統一球の影響です。しかし、後半戦は一転、16本マークしているのです。これは統一球に対応できるようになったという証です。ですから、今シーズンは前半戦から主砲としての活躍をしてくれれば、チームの得点能力は自ずと高まり、投打がかみ合った戦いをすることができるでしょう。15年ぶりのAクラス入り、そして初のクライマックスシリーズ進出が見えてくるはずです。

 最後に両リーグの順位を予想したいと思います。パ・リーグは西武、オリックス、ソフトバンク、千葉ロッテ、北海道日本ハム、東北楽天、セ・リーグは巨人、阪神、広島、中日、東京ヤクルト、横浜DeNAの順です。いずれにせよ、今シーズンは東日本大震災から1年、“復興元年”ということでもありますから、日本に元気を与えるような熱戦が数多く繰り広げられることを願っています。

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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