注目度低くてもU20W杯は貴重な財産に

facebook icon twitter icon

 日本代表にとってのW杯が、夢の夢のそのまた夢でしかなかった時代、この国でもっとも集客力のあるイベントは高校サッカー選手権だった。Jリーグの前身でもあるJSL(日本サッカーリーグ)が時に3ケタの観衆しか集められないこともあった中、清水東などの静岡勢や帝京、四日市中高工といった学校は国立競技場に6万人以上の観客を呼び寄せた。これに対抗できるのは、唯一、トヨタカップだけだったといっていい。

 

 異常である。

 

 サッカーの質だけを比較した場合、高校選手権とJSL、どちらが上だったかは言うまでもない。それでも、人々が熱狂したのは前者だった。本来であれば成長するための踏み台だったはずの大会は、多くの選手にとって人生最大の目標となってしまい、結果、決して少なくはない“燃え尽き症候群”を生み出した。

 

 Jリーグが軌道に乗り、ようやく世界が現実的な目標となってからも、日本サッカー界には欧米のトップクラスの国々からすると奇妙な特徴が残っていた。それが、若年層の代表に対する熱狂だった。わたし自身、アトランタ五輪に興奮し、決勝まで進んだ99年ワールドユースの中継にかじりついた記憶がある。

 

 いまになって思う。あれは、A代表ではかないそうもない夢を、若い選手たちに投影していたのだな、と。

 

 先週末からチリでU-20W杯が始まった。ただ、メディアの反応は芳しくない。情報源を地上波テレビと新聞だけに頼っていたら、日本が決勝トーナメント進出を決めたことはおろか、大会が開催されていること自体に気づけないかもしれない。

 

 ネットの上ではそうした現状を嘆く声はある。わたしも正直、もう少しなんとかならないか、とは思う。だが、長い目で見た場合、この現状こそが正常化の証ではないか、という気もする。

 

 A代表がW杯で優勝できなかった時代に、スペイン人が若年層の大会に向ける関心はかなりのものだった。メディアの扱いも、イタリアやドイツに比べると明らかに大きかった印象がある。だが、様相は変わった。勝ったから未来は明るい、負けたから暗い、といった声も聞かれなくなりつつある。A代表が強くなったことで、若年層の大会は、成長期、過渡期の1大会でしかなくなったということなのだろう。

 

 とはいえ、この大会が無意味だ、ということではまったくない。

 

 エジプトを倒して迎えた第2戦、日本は地元チリと戦った。2-0という結果以上に内容は拮抗しており、展開次第ではドロー、もしくは敗北もありえた試合だった。

 

 それでも、最近ではA代表の選手でさえ経験していない南米の完全アウェーを経験し、苦しい時間帯を凌ぎきってのクリーンシートは、選手にとってかけがえのない財産となろう。試合中にPKを失敗し、それでもきっちり勝利を収めるというのは、W杯優勝経験のある国にとっても簡単なことではない。

 

 最終ラインを見事にまとめ、相当な重圧がかかったであろう先制PKを決めた市原が文句なしにこの試合のMVPということになるのだろうが、個人的には、最初のPKを失敗した高岡のプレーに胸を打たれた。

 

 PKを外し、その後迎えた2度の決定機もモノにできなかった高岡は、わたしが採点すれば「4」かそれ以下になる。それでも、ミスを取り返そうとする姿勢は、はっきりと伝わってきた。この日の経験が、彼にとって「苦い宝物」になりそうな、そんな気にさせられた。

 

<この原稿は25年10月2日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>

facebook icon twitter icon
Back to TOP TOP