そもそも、日本においてサッカーが長くマイナー・スポーツに甘んじてきた理由のひとつに「サッカーは点が入らない。だから面白くない」という偏見があった。だからこそ、初期のJリーグは、確実にボールがゴールネットを揺らすシーンを提供できる、PK戦での決着を導入していたのだろうとわたしは認識している。
 幸い、サッカーという競技が染みていくに連れ、リーグ戦に於ける決着の手段としては明らかな邪道であるPK戦はその役割を終えていった。サッカーには、点が入らなくても楽しい試合がある――そのことを多くの日本人が理解したということなのだろう。
 だが、誤解してはいけない。痺れるようなスコアレスドローがあるのは事実としても、観衆が望んでいるのは、やはりゴールである。「サッカーは体格に関係なくプレーできるスポーツである」という金言を誤解した指導者によって、大きな選手を育てようとしない土壌、空気が広まってしまったように、PKという“大量得点”による決着を否定しすぎたあまり、Jリーグからは得点への渇望が薄れているような気がする。つまり、1点差、2点差でリードをしていると、それ以上のゴールを望まないように見えるチームがあまりにも多いのでは、と思うのだ。

 目下、J1の首位を走る仙台は5試合で11得点を挙げているが、彼ら以外に1試合平均で2点以上の得点を挙げているチームはない。J2に目を向けても、2点以上のアベレージを残しているのは首位の湘南だけ、である。逆に、1試合平均2失点以上を喫してしまっているチームも、J1で2チーム、J2に1チームしかない。

 1試合平均で2点以上を奪うというのは、もちろん簡単なことではない。条件をクリアするためには、それなりの戦力と、そして意思が必要となってくる。勝てばいい、というのではなく、できるだけ多くの得点シーンをプレゼントしようとする、チームとしての意思である。

 実は昨年も、J1では1試合平均2得点をクリアしたのは1チームだけだった。一昨年は、ゼロだった。
 ちなみに、終盤に差しかかりつつある欧州のリーグに目を向けると、ブンデスリーガでは3チーム、イングランド、スペインが2チーム、守備の堅さでは定評のあるイタリアでさえ、1チームが1試合平均2得点以上を記録している。

 得点が生まれなくても、サッカーは楽しい。しかし、かつてドイツには、「1−0で勝つより、4−5で負ける試合を好む」と公言した名将もいた。同じ哲学に基づいたサッカーを追求しようという日本人監督は、いつか現れるのだろうか。

<この原稿は12年4月12日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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