24日にロンドン五輪男女サッカーのグループリーグの組み合わせが決まりました。男子のU-23日本代表はスペイン(欧州1位)、ホンジュラス(北中米カリブ海2位)、モロッコ(アフリカ2位)と同組になりました。各大陸の王者級の国々が揃った非常に難しいグループである一方で、それだけやりがいがあるとも言えます。日本が決勝トーナメントに進出するためのカギは、やはりスペインとの初戦です。
 短期決戦で大切な2つのポイント

 五輪本大会は短期決戦になります。7カ月で6試合を戦った五輪最終予選とは異なり、本大会では決勝まで進んだ場合、17日間で6試合を戦わなければなりません。このような短いスパンで試合が続くケースでは、初戦でいかに勢いに乗るかが大事になってきます。こう書くと、「いきなり優勝候補のスペインと当たって、日本にとっては残念な組み合わせになった」と思う人もいるでしょう。しかし、私はむしろ、初戦の対戦で良かったと考えています。

 というのも、初戦は、どのチームにも「勝ちたいけど、負けたくもない」という気持ちが働くからです。ゆえに手の内を探り合い、単調に終わってしまう試合が多く見られます。いくら欧州王者のスペインといえども、初戦のキックオフ直後からフルスロットルで臨んでくる可能性は低いでしょう。もちろん、それは日本も同じ状態ですが、最初から全力で試合に入れる2戦目以降よりは、番狂わせも起こりうるタイミングではないでしょうか。

 スペインはしっかりと組織を構築して守り、細かいパスワークとタテに速い攻撃を得意としています。つまり、日本と同じようなスタイルです。日本との差は、彼らは個人で局面を打開できる能力も備えているということ。残念ながら、この部分は普段の練習や試合環境の差でもあります。本番までに、その差を埋めることは難しいでしょう。日本としては、まずは素早く守りの組織を構築し、相手のボールに対して連続してアプローチをかけること。そして空いたスペースをしっかりカバーすること。この2点を徹底して、スペインの攻撃に耐えることが重要になります。

 ただ、単に守りを固めた引き分け狙いのサッカーでは絶対にダメです。五輪世代の選手たちは、ロンドンで終わりではありません。攻撃面のパスワークなどで、自分たちの実力がどこまで通用するのか試してほしいと感じます。スペイン戦は五輪世代の「現在地」を知る絶好の機会。そこで守りに入ってしまっては、今後の課題も見えてきません。強豪だからといってスタイルを変えるのではなく、いつもどおりの日本のサッカーでぶつかってほしいですね。

 短期決戦では勢いに乗ることに加え、切り替えの早さも大事です。グループリーグから決勝トーナメントの準決勝まで、選手たちはすべて中2日で試合を行なうことになります。試合が終わった後、すぐに切り替えて次の準備にとりかからないと、戦術の修正もコンディションの回復も中途半端に終わってしまいます。負けた場合でも、ショックを引きずるのではなく、「なぜ勝てなかったのか」をすぐに分析して、次に生かす。逆に勝った場合も、勝ったからよしではなく、「なぜ勝てたのか、その中でも悪かった部分はどんなところか」を確認する。いずれにしても、いかに早くチーム全体で次の試合に集中するかが大切となります。

 関塚隆監督は組み合わせ発表を受けて、「日本サッカーの飛躍を目指して戦いたい」とコメントを出しています。選手たちも日本サッカー界を背負う気持ちを忘れず、ロンドンではばたいてほしいですね。

 相手の変化に気をつけたいなでしこ

 一方、女子の組み合わせは日本や米国、ブラジルなどの強豪国が分散したかたちとなりました。金メダルを目指すなでしこジャパンが気をつけたいのは、相手チームのスタイルが変わっているか否かです。諸外国に比べてフィジカル能力や体格面で劣る日本は、ハンデを補って余りある細かいパスワークと組織的な守備でW杯を制しました。この結果を受けて、他の国々も組織力と技術力の向上を図ったことは間違いないないでしょう。フィジカル能力や体格面で優れた対戦相手が、日本のように細かくパスを回すスタイルに変わっていることは十分考えられます。

 日本と同じグループには、スウェーデン、カナダ、南アフリカが入りました。スウェーデンとカナダには高さがあり、南アフリカにはスピードがあります。特にスウェーデンには、W杯の準決勝で3−1と快勝したものの、日本の選手が当たり負けをしたり、スピードについていけない場面も見られました。もし、スウェーデンが日本流のスタイルにシフトチェンジしていた場合、かなり苦しめられるでしょう。特に攻撃においては、相手に組織的な守備をされると、リーチの長さもあって、日本のパスが今までのように繋がらないことが予想されます。

 では、そうなった時にはどうすればいいのか。W杯直後にも書きましたが、相手から時間とスペースを奪うことがカギになってきます。つまり、技術をさらに高め、判断のスピードを強化することで、相手よりも速く、空いているスペースへ仕掛けるのです。守備においてもボールを奪われた時のことを考え、常に相手の危険なエリア、選手に注意を払っておくことが重要です。

 幸いなことに6月には、そのスウェーデンと親善試合を行うことが発表されています。ビデオで分析するのと実際に対峙して得られる情報量は比べ物になりません。この試合で相手が手の内を全てさらけ出すことはないでしょう。ただ、少しでもスウェーデンの変化を選手自身が感じ取れれば、本番でのギャップは少なくなります。貴重な機会ですので、有効活用したいところです。

 W杯の優勝、アルガルベ杯準優勝、そして先の米国、ブラジルとの親善試合の結果から、多くの人は「日本がグループリーグを突破するのは当然」とみていることでしょう。これは選手も同じだと思います。4年前の北京五輪で彼女たちはあと一歩でメダルを逃しました。メダル獲得への思いは相当強いはずです。しかもW杯の優勝を経て、「メダルを獲らなくてはいけない」というプレッシャーも出てきます。これらの気持ちが空回りすると、落とし穴になりかねません。

 W杯での日本は、一戦一戦をしっかり戦った結果、世界一にたどり着きました。今回、あまりメダルのみを意識し過ぎると、思わぬところで足下をすくわれる恐れがあります。なでしこの選手たちにはW杯と同じように、一戦一戦の積み重ねで大会に臨んでほしいと感じています。そして最終的には決勝の舞台、聖地・ウェンブリースタジアムで、彼女たちが表彰台の1番上に立つことを願っています。

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。
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