シーズン最初の1カ月を終えて、5勝6敗1分の3位。開幕から投打がかみ合わず、攻守ともにミスがあって負けが先行しましたが、このGW前半の4連戦は3勝1敗と盛り返してきました。チームに勢いをつけてくれたのは、これまでも取り上げてきた山口直紘安里基生のルーキー右腕コンビです。特に安里は4月29日の高知戦でリーグ史上3人目、球団史上初のノーヒットノーランを達成しました。
 実はこの試合、僕は途中まで安里が大記録に挑戦していることに気が付きませんでした。というのも前半はなかなかチャンスに点が獲れない状態が続き、攻撃のことばかり考えていたからです。5回のインターバルでラジオ中継のインタビューで「安里はパーフェクトピッチングですが」と指摘を受けて、ようやく知った次第です(その後、8回2死から四球を出し、完全試合は逃す)。

 安里に関しては入団時からコントロールがよく、球威もあるため、山口とともに先発ローテーションとして期待していました。体重97キロとポッチャリ体型にしては牽制がうまく、変化球も多彩と器用な一面があります。ところがオープン戦ではなかなか結果を残せませんでした。しかも、先頭打者を四球で歩かせ、自滅するパターンの繰り返し。同じ失敗を繰り返す人間は、いくら素質があってもプロでは成功しません。性格的にもマイペースタイプだったので、まず本人に話をし、プロ選手としての意識の部分から少し厳しく指導しました。

 メンタルの次は体力です。開幕から1カ月は試合よりも投げ込みを優先し、しっかりと投げる力を養いました。こうして満を持しての初先発が29日の試合だったというわけです。この試合ではオープン戦で見せたような自滅もなく、先頭打者をきっちりと打ち取っていました。投げ込みの成果でフォームが安定し、直球、変化球ともに同じ腕の振りで投げられていたのも、相手がとまどった要因でしょう。

 しかし、プロの世界は続けて結果を出すことが求められます。安里にとって真価が問われるのはこれからです。いきなりノーヒットノーランを達成したとなると、他チームも今後は研究してくることは間違いありません。相手のマークをものともせず、好投を続けられるか。これが、さらに上を目指せるかどうかの分岐点です。

 安里の課題は2点あります。ひとつはウイニングショットの精度です。彼はシンカー、チェンジアップ、カーブと緩い球で空振りを取れますが、NPBレベルから見れば、コントロールはまだまだ甘い。よりストライクからボールになるコースに集めなければ、NPBクラスの打者なら対応されてしまうでしょう。

 もうひとつはボール球の使い方です。安里の場合、追い込めば追い込むほど、早くアウトを取りたいあまり、ボールがストライクゾーンに入る傾向があります。しかし、ピッチングの原則は逆です。追い込んだら、なるべくボール球で勝負する。これができなければ、今後は痛い目に遭います。

 安里に限らず、僕は投手陣に「初球は真ん中でもいいから、大胆にストライクを」と話しています。初球からコーナーを狙ってボールが先行すれば、自分で自分の首を絞めてしまうからです。そのかわり、「追い込んだら際どいコースを」と指示を出しています。バッター心理を考えても、カウントが不利になれば、少々ボール球でも手を出してきます。これを利用しない手はありません。

 この2点を克服すれば、安里はさらにレベルの高いピッチャーになれるでしょう。ピッチャーは点を与えなければ、少なくとも負けることはありません。彼には、そんな“負けない”投手を目指してほしいと願っています。

 もうひとりの山口はチームに合流した時から練習熱心で、オープン戦も内容が良かったため、開幕投手に指名しました。ところが結果は3回途中でKO。試合後のミーティング、僕は彼に「オマエの持ち味は何だ?」と尋ねました。
「リズムとコントロールです」
 この答えに僕は一安心しました。自分の特徴を本人が自覚していたからです。ならば、それを活かす投球を実戦でみせるだけ。山口に関していえば、まだ線が細く、ストレートの球速も130キロ台。現状では本人の言うように「リズムとコントロール」が生命線です。まだ21歳ですから、フィジカルを鍛え、経験を積めば、いい右腕になるとみています。

 今季の徳島投手陣は、彼らに加え、3人の外国人投手が重要な役割を担っています。カープアカデミーから2年連続で派遣されたレヒナル・シモンバレンティン、そして米独立リーグから来たジェイソン・ノーダムです。速球が武器のバレンティンは本来は中継ぎタイプ。しかし、チーム事情もあり、先発で起用しています。本音を言えば、うまくいかなければ中継ぎに回すつもりだったのですが、初先発の福岡ソフトバンク3軍戦で9回を完封したため、配置転換する理由がなくなってしまいました(苦笑)。これはうれしい誤算と言えるでしょう。

 またジェイソンは、日本にもなかなかいない左のスリークォーター。145キロ前後のスピードボールを投げ、適度に荒れているため、左バッターは怖く感じることでしょう。カーブ、チェンジアップで緩急もつけられますから、左殺しとしては最適です。体力もあり、連投もきくため、左の中継ぎとしてNPBに売り込もうと考えています。このジェイソンと昨季の防御率1位・岩根成海を左右のセットアッパーに据えることで、今季の勝ちパターンが確立できました。

 攻撃では開幕から東弘明吉村旬平の1、2番をずっと固定して試合に臨んでいます。2人とも足があり、塁に出てかき回せる点を期待しました。この1、2番は今後も余程のことがない限り、動かすつもりはありません。今のところ、吉村は打率.326と結果が出ています。しかし、長いシーズン、うまくいかないこともあるでしょう。ある程度のミスはこちらも覚悟しています。ただ、現状に満足することなく、上を目指して1試合1試合、取り組んでほしいものです。そうすれば1年経った時、次のステージが見えてくるのではないでしょうか。

 4月を終えて、リーグ戦は香川が頭ひとつ抜けた状態です。その原因をつくったのは徳島だと思っています。特に今季初対決の一戦(20日)で8回に2点リードをひっくり返され、相手に波に乗せてしまったように感じます。とはいえ、徳島は昨季のチャンピオンチーム。戦力的に大きな差があるとは感じません。チームの歯車はかみ合ってきましたから、勝負はこれからです。香川とは5月末に4連戦が組まれています。ここでしっかり叩けるよう、連休の残り試合もいい形で乗り切るつもりです。
 

島田直也(しまだ・なおや)プロフィール>:徳島インディゴソックス監督
1970年3月17日、千葉県出身。常総学院時代には甲子園に春夏連続出場を果たし、夏は準優勝に輝いた。1988年、ドラフト外で日本ハムに入団。92年に大洋に移籍し、プロ初勝利を挙げる。94年には50試合に登板してチーム最多の9勝あげると、翌年には初の2ケタ勝利をマーク。97年には最優秀中継ぎ投手を受賞し、98年は横浜38年ぶりの日本一に貢献した。01年にはヤクルトに移籍し、2度目の日本一を経験。03年に近鉄に移籍し、その年限りで現役を引退した。日本ハムの打撃投手を経て、07年よりBCリーグ・信濃の投手コーチに。11年から徳島の投手コーチを経て、12年より監督に就任。
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