第282回「走る時は何をすべきか?」
エンデュランススポーツに取り組むようになり45年。長期間に渡り、長時間カラダを動かしてきた。
心臓の拍動は有限であり、「長距離スポーツをやると寿命が縮まる」なんて言われていた時代もあったが、様々な研究が進み、今では身心ともにポジティブな効果があると証明されている。
カラダにも精神にも、近年では脳の発達にも効用が発見され、いいことずくめ。あえて難点を付けるなら、同世代に比べ食欲が落ちないこと、すぐに眠くなることだろうか!?
僕自身、カラダを動かすことを仕事にしていたので、「走る時は何を考えているんですか?」「暇じゃないんですか?」と聞かれることが多かった。
まあ、そんな質問をしてくるのは、エンデュランス系スポーツをしていない人。「走っている時はいろいろ考えるんだよ」と答えてもなかなか理解してもらえない。
走っている人にはご理解いただけると思いますが……。
その次の段階は「何を聴きながら走りますか?」という質問だ。今どきは、機器の進化もあり、音楽やラジオ、書籍の朗読まで簡単に軽量で持ち出せるようになった。そんなこともあり、何かを聴きながら走る人が多く、何度かそれに関する取材も受けたが……。実は僕は何も聴かない。一切の情報を入れずに走るのが好きだ。
僕は朝起きてすぐに走ることが多い。起きて水を飲んで、少し動き作りのウォーミングアップをしたら、走り出す。シャワーを浴び、朝ご飯を食べて仕事という流れ。これが何十年も続いている。
そして、走っている時は頭の中の整理とカラダとの対話の時間。疲労や二日酔いで調子が良くない時も、感覚が良い時も、自分のカラダと対話する。今日はここに違和感があるなとか、昨日、動きづらかった関節の具合を確認したり……。意外に自分のカラダと対話するのは1日の中で少ないので、走っている時は貴重な時間だ。
頭の中を整理する時間
そして頭の中の整理。仕事やプライベートも含め、やるべきタスクを思いめぐらせ整理していく。日中様々な情報が行きかいしている中、その瞬間には思っていても、すぐに他の情報に押しやられていることが少なくない。僕の能力はその程度なので、走りながら頭のどこかに追いやられたそんな物事を、掘り起こしたり、広げたり。この時間に出てくるやるべきタスクやアイディアの多いこと。もう走り終わった瞬間は、すぐにPCに向かいたいくらい。ところが、そこからシャワーを浴び、朝ご飯を食べていると、またまた頭の中で迷子になってしまう。だから危ないと思ったら、走り終わった時点でメモすることにしている。
僕にとってそんな大事な時間に、音楽を聴いてしまうと頭の整理ができず様々な事柄が滞ってしまうのは目に見えている。そして面白いのが、走っている際に突然音楽が思い出されてリフレインすることだ。それが最近聴いたものだけでなく、まったく予想しない昔の曲だったりする。きっと脳のどこかにしまわれていた記憶が、何かの拍子に出てくるのだろう。けっこうこれが面白く、楽しんでいたりもする。
どうやら、動いている時はカラダの血流が増し、脳の血流も良くなっている。だから当然脳の働きも活性化するようで、この現象には説明がつく。また脳波も適度にカラダを動かしている時の方がいいと言われている、この辺りの研究を見ていると、カラダを動かさない人の気持ちが理解できないくらいだ!?
そもそも、この世の中は情報に満ち溢れている。特にスマホを使うようになり、一日に触れる情報量は半端ない。そんな日常だからこそ、走ったり自転車に乗ったりしている時くらいは情報と切り離したい。同様に泳いでいる時も、水の音だけ聞いているのが心地よいのだが、最近では泳ぎながら音楽を聴けるヘッドホンまで販売されている。おいおい!? そんな時まで聴くことないだろう、と思うのだが……。
もちろん、どうやって走るかなんて個人の自由なのだが、これからも僕は自分との対話を大事にしたい。別に人とのコミュニケーションが嫌いなわけではなく、むしろ人と話をするのは好きな方だ。友達も沢山いる方だと思う(たぶん!?)。だからこそ、自分と向き合う時間を大切にしたい。逆に走る時を逃すと、そんな時を過ごせないから……。
いつもイヤホンをしている皆さん、ぜひ明日はイヤホンを置いて、自分と会話しながら走ってみませんか?
<白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール>
スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17~25年まで東京都議会議員を務めた。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)。