今や愛媛には欠かせない絶対的守護神である。
 秋元陽太、24歳。横浜F・マリノスから今季、愛媛FCへやってきた。ここまですべての試合でゴールを守り続け、イヴィッツア・バルバリッチ監督からは「陽太が最後にいてくれることで、愛媛のゴールはより安全性が拡充する」と全幅の信頼を置かれている。
 今季の愛媛は20試合でチーム総失点は21と決して少なくはない。しかし、秋元がいなければ、もう10点以上は失点が増えていたのではないか。17日の四国ダービーでも0−3と完敗を喫するなか、最後の砦として試合終了まで集中力を切らさず、それ以上の失点を許さなかった。

 高いスピード、的確な判断

 181センチ、85キロ。マッチョな体型は一見、格闘家風だ。しかし、ひとたびピッチに立てば、その動きの俊敏さに驚かされる。相手の強烈なシュートに飛びつき、ゴールを死守すれば、DFラインの裏へ抜けたボールに対しては勢いよく飛び出し、相手の選手が触る前にセーブする。
「僕はキーパーとしては背は高くない。スピードで勝負することを、ずっとテーマにしています」
 試合のみならず、練習から秋元の反応の良さは秀でている。キャプテンのMF前野貴徳はシュート練習で秋元に何本も止められ、「気分良く練習が終われない」と苦笑していた。ベテランのゴールハンター福田健二は「紅白戦で彼からゴールをあげることが、ひとつのアピールになる」と若きGKを高く買っている。

 キーパーの最大の目的は失点を防ぐことにある。状況判断ができなければ、動きの素早さも役には立たない。その点も秋元は的確だ。特にDFラインの裏に抜けたボールやクロスに対する処理は巧みで、これまでも幾度となく、ピンチを未然に防いできた。
「これはマリノスの下部組織にいた頃からずっと意識して練習してきた部分です。飛び出したら絶対、ボールに触る意識は常に持っています。触れずに相手にボールを持たれて、ゴールを決められるのが一番恥ずかしいですから」

 横浜FMのトップチームに昇格してからも、松永成立GKコーチからクロスへの対応を丁寧に教わった。ポジショニング、ボールに対する入り方など、日本を代表する名GKだったコーチからの教えは、今、試合を重ねることで実践できつつある。

 加えて1対1の場面でも秋元は無類の強さを誇る。衝撃的だったのは4月8日のアビスパ福岡戦。4−1とリードした後半30分、福岡のMF成岡翔が前線へ蹴り出したロングボールにMF城後寿が素早く反応。愛媛DF陣は完全に裏を取られ、絶体絶命のピンチを迎えた。城後は右足にボールを収め、シュート体勢に入る。

「最後まで動かないことを意識して、相手の動きを見極めました」
 秋元はその体勢から自分の右へボールが来ると判断し、一瞬、体重を乗せかけた。だが、それは城後の仕掛けたワナだった。右へ打つと見せかけて左にシュートする。それが真の狙いだった。秋元は軸足の角度や体の向き、ボールの位置をギリギリまで凝視し、それを見破った。逆を突かれながらも、大きく手を伸ばしつつ左方向へ体を傾かせる。城後が右足のインサイドで流したシュートは左手一本で枠の外へ弾き出された。

 ビッグプレーはまだ続く。2点差に詰め寄られ、さらに福岡の攻勢を受けた試合終了間際、再び城後に裏へ抜けだされて、ゴール前で1対1のシーンをつくられた。しかし、秋元は慌てず、好位置をとり、巧みにシュートコースを消す。城後の左足から勢いよく放たれたボールは、ジャンプ一番、秋元の手にはね返された。

「アーッ!」
 2度の決定機を防がれた城後の悔しがる声がピッチ中に響き渡った。
「相手の間合いがうまくとれたと思います。これも試合に出ているからこそできたプレーでしょうね」
 もし、この2ゴールが決まっていたら、少なくともスコアは同点だった。殊勲のファインセーブを連発した男は誇らしげに胸を張った。

 フィードボールは“レーザービーム”

 秋元の特筆すべき点は守備だけにとどまらない。実は一番の武器とも言えるのが、精度の高いフィードボールだ。先述の福岡戦では、そのフィードボールでアシストを記録している。2−1とリードして折り返した後半立ち上がり、「相手のDFラインが寄ってスペースが空いていたので狙ってみよう」と鋭く低いボールを右サイドへ供給する。ワンバウンドしたボールは相手DFラインの裏へ抜け、駆け出したFW有田光希の元へ。有田は頭で合わせて前へボールを送ると、そのまま相手選手を振り切ってゴールを決めた。

 この様子をベンチから見つめていた福田は「レーザービームのようにピンポイントにボールが飛んできた」と評し、こう続けた。
「あんな正確なキックが蹴られるのは、今のJ2のキーパーでは、ほとんどいないんじゃないですか。愛媛にこんなすごい選手が来てくれて本当に良かったと感じましたね」

 GKにとってキックの良し悪しは見逃せない評価ポイントである。精度が低いと、せっかくのゴール前からのキックが相手に渡り、再びピンチを招く。秋元はジュニアユース時代からキックを意識して磨いてきた。刺激を受けたのは1つ年上のGK飯倉大樹だった。
「飯倉さんは足元がとてもうまくて、コーチからも“見習え”と言われていました。キックの精度を高めるために全員でボールを蹴り合って、同じエリアに飛ぶまで練習を続けたりもしましたね」
 現在、横浜FMで正GKを務める飯倉は「確かに低くて速いキックは昔から得意にしていました。でも、アキ(秋元)がマネし始めて、去年あたりからはオレよりうまくなった」と笑う。
 
 高い身体能力に的確な状況判断、そして正確なキック……GKとしての能力に全く非の打ちどころはない。
「アキが持っている能力はすべてにおいて高い」
 飯倉が実力を認めながら、秋元はその控えに甘んじ、横浜ではなかなか試合に出られなかった。「ポテンシャルはJ1のトップクラス」と松永も期待していた素質は、ようやくこの愛媛で花開こうとしている。

「ずっと試合に出られていることには喜びを感じます。でも失点する試合が多いのはまだまだな証拠。しっかりゼロで抑える試合を増やしたい」
 周囲の高評価にも、秋元は謙虚な姿勢を崩さない。目標は「全試合出場」。1年間、ゴールを守りきってこそ真のキーパー――その責任感が、守護神としての大きな存在感につながっている。

(後編につづく)  

<秋元陽太(あきもと・ようた)プロフィール>
1987年7月11日、東京都出身。ポジションはGK。横浜F・マリノスジュニアユース菅田、同ユースを経て06年からトップチームに昇格。U-19日本代表にも選出される。3年目の08年に念願のJ1リーグ戦初出場(第16節、新潟戦)を果たすが、その後も出場機会に恵まれず、今季より愛媛に完全移籍。高い身体能力を活かした確実なセービングと、攻撃の起点ともなる精度の高いフィードボールが武器。昨季までJ1リーグ通算5試合出場。今季は6月18日現在、全20試合にスタメン出場を果たしている。身長181cm、75kg。背番号は37。
(写真:(c)EHIMEFC)



(石田洋之)
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