25日、福井ミラクルエレファンツが新潟アルビレックスBCに敗れ、石川ミリオンスターズの前期優勝が決まりました。福井としては、やはり6月の5連敗が痛かったですね。残り10試合でどの位置にいるかということが重要だと考えていましたが、その重要な時期にやってはいけない連敗をしてしまいました。「よし、ここからが勝負だ。絶対に負けられない」という気持ちが空回りし、逆にミスが多く出てしまったのです。これが前期の結果として表れたと思います。
 今シーズンは監督として1年目ということもあり、他球団がどんな野球をするのか、どんな選手がいるのか、という戦力分析ができていない状態で開幕を迎えました。その中で、相手がどうのというよりも、まずは自分たちのチームづくりをしっかりとやり、投手を中心とした野球をすることを目指してシーズンに臨みました。

 開幕戦は富山サンダーバーズに2−1で勝利し、まずまずのスタートを切りました。その後も、ほとんど連敗もなく、6月初旬までは順調に勝ち星を積み上げていきました。しかし、徐々に投手陣に疲労が出てきました。それは他球団も同じだったと思います。そこで勝敗を分けたのは、打線でした。前期優勝した石川や新潟は投手が打たれても、それを打線が援護してくれましたが、福井にはそれがなかったのです。

 前期は全体を通して投手がよく頑張ってくれたと思います。25日現在、チーム防御率はリーグトップの2.07。2位の新潟が3.07ですから、いかに福井の投手陣がしっかりと要所を抑えてきたかがわかります。なかでも、特筆すべきは開幕から中継ぎとして投げていた福泉敬大(神港学園高−明石レッドソルジャーズ−神戸9クルーズ−巨人)を先発にまわすことができたことです。

 福泉はもともと力のある球を投げる投手ですから、先発をさせたいと思っていました。しかし、先発3人は揃っていましたし、何よりも中継ぎを安定させたいという気持ちがありましたので、前半は福泉を中継ぎにしていたのです。しかし後半に入ると、徐々に先発投手陣に疲れがたまり、中5、6日でも疲労が回復できない投手も出てきました。そこで福泉を先発にまわすことにしたのですが、思い切ってそれができたのは、実は福泉に代わる中継ぎ投手の台頭があったからなのです。

 リリーバー天野の成長

 それが天野貴大(三島高−創価大)です。彼は入団当初、正直言って実戦でマウンドに上げることのできるレベルにまでは至っていませんでした。それを「強化選手」として、織田一生コーチが付っきりで毎日遅くまで指導したのです。ですから、練習量はダントツのチーム一。織田コーチの熱血指導と、天野自身の懸命な努力によって、徐々に投手としての技術を身に着けていきました。そして、彼にとって大きかったのは、5月初めにフォームをサイドからもともとのスリークォーターに戻したことで変化球のキレが格段とよくなったことでした。初めはバント処理や牽制もできず、他の投手から笑われていた天野ですが、そうした細かい技術もしっかりと身に着け、今ではもうチームにはなくてはならない存在です。

 福泉にとっても先発への転向はプラスに働いています。もともと本人も先発を希望していたこともありますが、タイプ的にも中継ぎより先発が合っていたようです。福泉のボールは球威もありますし、コントロールも悪くありませんので、1イニングを完璧に投げれば、一番力を発揮するのではないかと考え、中継ぎにしていました。ところが、福泉にとっては1イニング限定の方がプレッシャーとなり、力みにつながっていたのです。中継ぎとして打たれて落ち込んでいたこともあり、気分転換にと8日の新潟戦に先発をさせました。すると、7安打を打たれながらも粘って1失点完投勝ちを収めたのです。どうやら、先発として試合をつくるためにペース配分をしながら投げたことで、力が抜けたいい状態で投げられたことが良かったようです。

 さて、この福泉の先発起用に危機感を抱いたと思われるのが、高谷博章(北海高−浅井学園大)です。高谷は1年目は7勝、2年目の昨季は8勝と、先発の一角として活躍してきました。今季も柱として期待されていましたが、開幕して約2カ月間、白星を挙げることができずにいたのです。これには本人も、非常に苦しんだようです。

 ベテランである高谷には、開幕前から「自由にやっていい」と言ってきました。悔いの残らない野球人生を送ってほしいという思いから、高谷自身の力で勝負に挑んでほしいと考えたのです。しかし、自由にやらせるからには結果を残さなければならないことは当然です。そのプレッシャーもあり、高谷にとって勝てない時期は、苦しかったことでしょう。その状況をどうにかして打開しようという気持ちが練習や試合の態度からも見てとれました。いつもとは違うトレーニングをしてみたり、普段は早めに練習を切り上げる彼が、これまでやったことのないベンチの掃除をしたり、登板のない遠征にも「来なくていいよ」と言っても「0勝投手がそんなことできません」と帯同してきたり……。もうとにかく何でもいいからトンネルから抜け出したいという気持ちがひしひしと伝わってきていました。

 そして、23日の富山サンダーバーズ戦でようやく今季初勝利を挙げたのです。しかも5安打完封勝ちと、ほぼ完璧なピッチングでした。この勝利には、私も本当に嬉しかったですね。高谷が苦しんでいる時期、私自身、彼にアドバイスするのをずっと我慢してきました。彼自身の力で上がってきてほしかったのです。ですから、23日の白星は実に感慨深いものがありました。

 “Think”野球へは道半ば

 一方、打線はというと、ヒットは出るものの、それがなかなか線としてつながりません。得点圏にランナーを送ることができず、得点に結びつかないのです。現在のレギュラーには、長距離打者はいませんから、送りバントやヒットエンドランなどを使ってコツコツと攻めていかなければならないのですが、そこでのミスも少なくないのです。チームには走れる選手が揃っていますので、開幕当初は機動力で攻撃のチャンスを広げることができました。ところが、試合を重ねるにつれて、相手も研究してきますので、後半には走ることができなくなったのも攻撃の幅を狭めてしまった要因の一つです。

 後半にはほとんどサインを出しませんでした。今季のチームスローガンを「Think」としたわけですから、選手自身でどこに打つようにすればヒットの確率が高くなるのか、ランナーを進めることができるのかを考えさせたかったのです。練習では特定のケースをつくって、バッティング練習をさせていますが、試合になればボールカウント一つとっても、常に状況は変化していきます。その度に、頭の中の考えも変えていかなければいけないのですが、選手たちにはまだそれができません。

 しかし、その打線も浮上のきっかけをつかみつつあります。5連敗後の富山との2連戦には完封で連勝しましたが、実はこれは私からの発破が野手陣の奮起を促したのです。5連敗目を喫した翌日の試合前、私は選手たちに「後期には補強も考えている。今、試合に出ている選手でも結果が出なければ外れることもあるだろうし、チームから離れるようなこともあるかもしれない」とプレッシャーをかける言葉を投げかけました。すると、コーチが言うには「試合前の練習から選手たちの目の色が変わった」ようなのです。結果的に、その日の試合は6−0の快勝。6月に入って、ほとんど1、2点しか得点できなかった打線が効率よくつながり、得点に結びつけることができました。つまり、選手に慣れが生じ、緊張感がなくなっていたところに、補強の話が舞い込み、再び緊張感を取り戻したのでしょう。

 とはいえ、課題はまだまだ山積みです。特に「考える力」が不足しています。決められたメニューは本当に一生懸命にやるのですが、その後の自主練習となると、試合のための「調整」となってしまうのです。疲労がたまった状態では本番で力を発揮することができないと考えているからでしょう。しかし、その「調整」でこれまで結果が出ていないわけですから、もっと自分を追いこむ練習をしなければレベルアップは図れません。調整は土台があるベテランがやること。土台がない若手は、とにかくどうすれば上達するのかを必死に考え、がむしゃらに練習すべきです。このことに早く気づき、より貪欲に取り組んでいってほしいと思います。

酒井忠晴(さかい・ただはる)プロフィール>:福井ミラクルエレファンツ監督
1970年6月21日、埼玉県出身。修徳高校では3年時にエースとして活躍し、主将も務めた。89年、ドラフト5位で中日に入団。プロ入り後は内野手として一軍に定着した。95年、交換トレードで千葉ロッテに移籍し、三塁手、二塁手のレギュラーとして活躍した。2003年、再び交換トレードで中日に復帰したが、その年限りで自由契約に。合同トライアウトを受け、東北楽天に移籍した。05年限りで引退したが、07年からは茨城ゴールデンゴールズでプレーした。今シーズン、福井ミラクルエレファンツの監督に就任した。
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