この結果は上出来と言えるでしょう。今月からスタートしたブラジルW杯最終予選、日本は最初のヤマ場である3連戦を2勝1分で終え、勝ち点7を獲得しました。日本とオマーン以外の国は1試合消化が少ないとはいえ、2位との勝ち点差は5。グループで上位2カ国がW杯出場を決める現状のシステムでは、上位国との勝ち点差を考えなくてはなりません。今後、他国は日本と対戦する時、さらに勝ち点差を広げられないよう慎重に戦わざるを得なくなってくるでしょう。日本としては、上位にいれば他国の勝敗を気にする必要はありません。その意味で、いいアドバンテージが得られたと感じています。
 では、なぜ日本は勝ち点7を得ることができたのか。それは、3試合を通して、「しっかり守ってから、タテに速く攻める」というベクトルがチーム全体で一致していたからです。特に際立っていた点として、サイドからの崩しがあげられます。今回の3連戦、多くのチャンスがサイド攻撃から生まれたものでした。

 進化したサイド攻撃

 理想的だったのがオマーン戦での先制点のシーンです。左サイドでのショートカウンターから、最後は本田圭佑(CSKAモスクワ)がゴール。この攻撃に、私は日本の成長を感じました。なぜなら、サイド攻撃におけるクロスの選択肢が増えていたからです。

 そもそも、サイド攻撃がなぜ有効なのか。それはゴール前で守るDFが、ボールとマークする選手を同じ視野でとらえることができないからです。サイドから崩し、クロスをあげることで、相手DFはゴールへ向かう攻撃の選手への対応が遅れ、プレッシャーが弱まります。当然、クロスに合わせられる確率が上がるというわけです。DFの立場からしてみれば、クロスの受け手がひとりならば、まだ何とかなりますが、2人、3人とゴール前に顔を出すと、守りが非常に難しくなります。

 オマーン戦での得点シーンでは、左サイドバックの長友佑都(インテル)が抜け出し、クロスを上げています。この時、長友にはさまざまなプレーを選べる状態にありました。ファーサイドの本田のみならず、ニアサイドの岡崎慎司(シュツットガルト)、少しマイナス気味に前田遼一(磐田)へボールを出すこともできました。さらに言えば、中に切り込んでシュートを打つこともできたのです。

 ここに今までの日本との大きな違いがあります。これまでの日本は、クロスをあげる際の選択肢は多くても2つほどしかありませんでした。ゴール前には人数は揃っていてもポジショニングが重なってしまい、ボールを供給するポイントが限定されるケースが少なくなかったからです。

 しかし、この場面ではボールを出せる味方が少なくとも3人いました。オマーン側からみれば、長友がどこへクロスをあげるか判断に迷ったことでしょう。だから、PA内にGKを含めて7人の選手を揃えていたにもかかわらず、ほぼ何も対応できないまま失点してしまったのです。いくら相手が守りを固めていたとしても、サイド攻撃から前線でのポジショニングを工夫すれば、シュートチャンスは格段に増える。これを実践できたのは、日本にとって大きな収穫だったと思います。

 このゴールをきっかけに、日本はオマーンに3得点をあげて快勝しました。日本の選手たちは、これまで積み上げてきたタテに攻めるサッカーに大きな自信を抱いたことでしょう。これが、次のヨルダン戦の大勝(6−0)につながったと私は考えています。この試合も早い時間帯にセットプレーから先制点を奪いました。相手が違っても、自分たちのサッカーを貫けば結果が出る。オマーン戦で得た自信が確信に変わったはずです。

 守りから生み出したリズム

 そして、ザックジャパンのもう1つのテーマである「しっかり守って攻撃に繋げる」サッカーが垣間見えたのが、アウェーのオーストラリア戦です。
 この試合、日本は序盤に体格で勝る相手の高さと強さを生かしたロングボール主体の攻撃に押し込まれました。しかし、これは戦前から想定されていたことです。ポイントは前回指摘したように、サイドに深く侵入され、クロスを上げられないようにすることでした。結果的に日本は、この対応がしっかりしていました。相手に対してDFが体を寄せてプレッシャーを与え、またサイドのスペースを消していたため、クロスを上げられはしましたが、精度の高いキックは少なかったです。これが相手のパワーサッカーにも大崩れしなかった最大の要因でしょう。

 そして、前半途中からは日本がボールをキープする時間が増えました。相手の攻撃をしっかりと防いだことで、チームに落ち着きとリズムが生まれたのでしょう。逆に、オーストラリアは思うようなサッカーができず、勢いが弱まりました。後半に相手選手が1人退場してしまったのも余裕のなさの表れと言えます。つまり、日本は守りながらも相手を追い詰めていたのです。

 このオーストラリア戦では栗原勇蔵(横浜FM)に注目して試合を観ていました。ヨルダン戦で負傷した吉田麻也(VVV)の代役として、どれだけの働きができるのか。結論から言えば、自分の役割をきちんとこなしていました。相手選手に最後まで体を寄せ、クロスボールに対しても、前方へのクリアなのか、CKにしてでも防ぐのかといった判断が冷静にできていましたね。さらに攻撃時には縦パスを通し、起点にもなっていました。誰が出てもチームのクオリティが変化しないのは長丁場の戦いでは大切なこと。吉田不在を感じさせなかった守りの安定も今回の収穫と言えるでしょう。

 審判の傾向をつかめ!

 ただ、オーストラリア戦では課題も見受けられました。それは判断のケアレスミスです。たとえば日本は先制直後、内田篤人(シャルケ)がPA内でファウルを犯し、PKで同点にされてしまいました。CKのポジション争いの渦中でしたから、DFとして激しく競り合ったことは間違いではありません。日本側からすれば、厳しすぎる判定でしょう。しかし、この試合はアウェーで、かつ相手に退場者が出ていました。それらを踏まえれば、「日本にも厳しいジャッジが下されるかもしれない」と細心の注意を払うべきだったと思います。

 確かにオーストラリア戦は不可解な判定が多くありました。終盤には栗原が2枚目の警告で退場させられ、ロスタイムには日本がFKのチャンスをつかんだにもかかわらず、試合終了の笛が鳴らされました。ただ、アウェーではこういうことも起こり得るものです。レフェリーも人間ですから、機械のように全員が同じジャッジを下すことはまずありません。今後は審判の判断基準や、どのような場面、時間帯にファウルを取るのかという傾向をスタッフ、選手で情報収集をすることも必要になるでしょう。今回の経験を、まだまだ続く最終予選の戦いに生かしてほしいですね。

 次のイラク戦(9月、ホーム)では、今野泰幸(G大阪)、内田、栗原というDFラインの主力選手が軒並み出場停止になります。これはザックジャパンにとってはかなりの痛手です。しかし、控えメンバーはもちろん、代表に選ばれていない選手たちにとっては、大きなチャンスと言えるでしょう。イラク戦までに2試合の親善試合も予定されていますから、そういった選手たちがぜひ実力をアピールして、チームに新しい風を吹き込んでもらいたいですね。そして、この3連戦での得た収穫と課題をさらなる代表のレベルアップにつなげられるよう願っています。

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。
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